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1話-①:ボーイ・ミーツ・スター

juryuiが結成されて約三ヶ月が経とうとしている。大々的にメディアが報道してくれたおかげで滑り出しは上々。もう少しでデビューシングルも完成する。曲はもちろん、天才のセンスを持つ樹李君が担当してくれて、この前デモを聞かせてもらったがあまりの凄さに耳が溶けるかと思った程だ。 そして、もう一つ凄いのはダブル主演で俺達のドラマが決まった事。元々お互いソロでモデル兼アイドルをしていたので認知度はそんなに低い訳じゃない。深夜帯ではあるけれど、こんなに早く主演で役を貰えるなんて奇跡だ。 それに俺は樹李君の一番好きな所は演技に対するストイックな所なので、まさか憧れの樹李君の演技を生で、しかも一緒に出来るなんて思ってもみなかった。最近、樹李君は音楽やファッションプロデュース方面で力を入れてるから俳優業はお休みしていたのかなと思っていたけど、杞憂だったらしい。 今日はそのドラマの初日。樹李君演じる、百瀬美波( ももせ みなみ)と俺演じる、千里彼方( せんり かなた)が出会うシーンだ。 今回のドラマのタイトルは『君はオトコノコ』。主人公千里は田舎から上京して初めての都会で迷子になる。そこで助けてくれたのが見た目は可愛い女の百瀬。しかし百瀬は実は男だったという設定。千里は百瀬を男と知らず恋をしてしまうというラブコメディだ。今流行りのBLというジャンルとはいえ、まさか俺達が抜擢されるとは。合法で樹李君――役ではあるが――と付き合うなんて信じられない。脚本家は俺達を見て当て書きしてくれたらしいので、感謝の意しかない。 別に樹李君とどうこうなるつもりは無い。寧ろそんな事を考えるなんて罰当たりも甚だしい。相手は神。神に恋愛感情なんて烏滸がましいし、畏れ多い。 樹李君にはきっともう既に幸せにしたい相手が居て、あと何年かしたら結婚して、そして可愛い樹李君似の女の子が出来て、その子から唯おじさんなんて言われるんだ。考えるだけでなんて幸せなんだろう。凄い、樹李君は存在してくれるだけでこんなにもファンを幸せにしてくれる……! 「唯? 大丈夫、緊張してる?」 ハッと我に返ればいつの間にか現場に着いていたらしい。目の前には見目麗しい樹李君がいた。 黒キャップに黒のマスク、細くて白い首にはクリア素材のチョーカーが巻かれている。いつ見ても樹李君は身だしなみに気を使っていて、かっこいい。 思わず、また樹李君に見惚れかけるが、すぐさま仕事モードに切りかえる。 心配している樹李に大丈夫だよ、と笑いかけて、目の前の台本に目を落とす。 「俺、演技するのは初めてなんだけど、樹李と一緒に出来て本当に嬉しい」 樹李は一瞬目を見張ると、そう、とだけ返した。もしかして照れてる……? 確認しようとすると樹李はひらりと踵を返した。 「じゃあ僕は着替えてくるから、また後でね」 「うん、また後で」 樹李はそのまま控え室の方へ向かっていく。俺はというと、既にメイクは済ませているので、この後先に俺だけのシーンの別撮りが入る事になっている。せめて、足を引っ張らないようにしなければ。 俺はもう一度台詞や演技プランについて見直すか、と目の前の台本へ目を落とした。

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