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スイッチング☆オフ:樹李の休日
※時系列的にはスイッチング☆オフ:唯の休日の辺りです。
午前六時。いつもなら大体このくらいの時間に起きて身支度をするのだけれど、今日はオフの日。寝ても誰にも咎められることは無い。もうちょっとだけ……と言い訳をして一眠り着いて次に目が覚めたのが八時。休日としては割と早めな起床時間だけれども、今日は早く起きて行きたいところがあった。
「良かった……! ちゃんと、受け取れた……!」
今日のミッション、それは発売の唯君のラジオのグッズを受け取ること。今回のグッズはパジャマだったので、ひとつは保存用、ひとつは着る用に二つ買ってある。モコモコの生地に唯君の好きな日本酒のワッペンが縫い付けてあり、一見すると日本酒が好きな人のパジャマみたいになっているのが面白い。
それにしても唯君の声は本当に好みドンピシャだ。唯君の声を聞いて、ラジオをやっていると知って、それから前のアーカイブから遡って聞くぐらいには唯君の声に惚れている。
そういえば、昨日のラジオまだ聞けてなかったんだよな、と思い、電車に揺られながら再生する。
『こんばんは、木ノ瀬唯です。今日は暑い一日でしたねー。でも、皆さんの元に届いたであろうパジャマはもろ冬用で申し訳ないです。でも、冬のお楽しみが出来たということで!』
掴みからくすりと笑ってしまう。唯君のラジオは本当にすぐ隣で無駄話をしているかのような気さくさがあって、それは箕輪樹李と接する時にはない温かさだ。
唯君は僕と対峙する時少なからず、よそよそしさというか緊張しているように思える。確かに事務所の先輩であることはそうなんだけれども、ユニットの仲間として、もう少し打ち解けられたらなと思ってしまう。
『さて、瞬殺お悩みキラーのコーナーです。僕、木ノ瀬唯、巷では何かと○○キラーになる事が多いとの事で、困ってるリスナーのお悩みを解決してさらに僕の虜になってもらおうというコーナーです。……いつも思うんですけど、これ毎回言わなきゃダメですかね……。めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど……! 自分から虜にしようとか、ナルシストも程々にしてよって話ですよ』
唯君はいつもここの時は照れ隠しなのか物凄い棒読み早口で説明するのだけど、それがなんとも可愛い。
『え、文句は後で聞くからサッサとコーナー進めって? 絶対聞かないくせに。……まぁ、いいですよ、後でたっぷり怒るとして……ラジオネーム透明な紐さん。』
え、今透明な紐さんって言った? 僕のラジオネームと一緒……?
『最近仕事の制作が滞っていて、ピンチです。そんな崖っぷちな僕にオススメの気分転換の方法を教えて下さい』
内容まで一緒だ。これは僕の送ったメール。嘘。読まれるなんて。びっくりと興奮と動揺で心臓がバクバクしていたが、その後の唯君の返答に耳をそばだてる。
2人で主演で決まったドラマの曲を皮切りにシングルが再来月から連続出でるのだけど、ドラマが忙しいのもあり、あまりインスピレーションが降りてきていなかった。直接唯君に聞くのは初主演で大変なのに憚れたから、匿名なら……と、思って送ったものだった。それが実際に取り上げてもらえるなんて。
『わ〜、お仕事お疲れなんですね。制作ってことは何か芸術系とかの制作なのかな、それとも会社員の人も制作って言う? 俺、会社員経験してないからわかんないなー。でもまぁ、気分転換か〜。そうだな、好きなお酒を飲む、かな』
唯君らしい答えだ。お酒か、あんまり家で飲むことは無いからな。
『え、仕事中に不謹慎だって? それもそっか、でもほら、自宅で作るとかなら一旦お酒入れた方がなんかごちゃごちゃ考えなくていいから案外整理出来るし。まぁ、要は制作中って飲み食いあんまりしないこと多いから、好きな物食べるってことで。何かざっくりしちゃったけど、ご飯は大事だからね』
本当にそうだ。制作に没頭しすぎて食事を疎かにしがちだった。さすが唯君。当たり前のことだけど、改めて気が付かされる。
『でも、透明な紐さんも無理はせず、程々に頑張る位で! 俺は応援することしか出来ないけど』
こんな、唯君からの頑張れだなんて幾らでも出来るよ……!僕は読んだくれたメールの部分をスマホで録音して切り取って何回も聞き直す。
「よし、唯君からエール貰ったし、頑張ろう」
結局スランプになった時の気分転換は唯君からの言葉なんじゃないか。なんて、ちょっと浮かれぽんちすぎるか。僕は家に帰るなり、早速楽曲制作に入ったのだった。
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