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8.理想の未来へ(7)※
「初めてはバックの方が楽だから、膝を立てて尻をこちらに向けろ」
澄人はシーツに額をつけた。後孔に硬いものが押しあてられる。
早く挿れてほしい。ひとつになりたい。でも少し怖い。
「息を吐け」
澄人がふうっと吐くと同時に、閉じかけてきている蕾がこじ開けられた。息が、止まった。指などとは違う。太すぎる。目を硬く瞑り、シーツに爪を立てて耐えるしかない。
「澄人、大丈夫だ。動かないから呼吸をしろ」
その言葉にすがるように、はあはあと犬のように空気を取りこんでは吐いた。その澄人に合わせて、泰徳のものがずずっと入ってくる。限界まで拡げられているはずなのに、まだ拡がることが驚異であり、喜びだった。泰徳を迎えいれることができている。
先ほどまで快楽を仕込まれた前立腺をごりっと擦られて、腰が跳ねた。
「ひっ」
指とは違う強い刺激に、澄人は涙がにじむのがわかった。澄人の反応に泰徳が同じところを細かく責めてきた。そこから背骨を走って頭まで刺激が届く。腰を支える腿が震える。体が燃えるようだ。
「き、もち、い、きもち、いい……」
譫言 のように漏らす澄人に泰徳が腰を振りながら優しく言葉をかけてくる。
「そうだ。澄人は素直で優秀だ。もう少し奥まで挿れるぞ」
押されてシーツの上を前に滑った。腹の中は泰徳で満ちている気がするが、まだ足りないと思う。泰徳を全部取りこんでしまいたい。
「もっと、もっと、きて、やすのり、さま。おれを、いっぱいに、して、くださ、い」
「わかった」
泰徳の手が澄人の腰を掴んだ。
「俺を全部飲みこめ」
太く硬い、熱いものが突きささってくる。内臓を押しあげられる感覚が苦しい。それでも澄人は必死に息を吐き、全身の力を抜いた。
ぱつんと尻に肉が当たった。
「入ったぞ」
泰徳のうれしそうな声に澄人も口元が緩んだ。肉壁はみっちりと泰徳の雄を包みこんでいる。泰徳とついにひとつになれたのだ。
泰徳の楔が円を描くように澄人の中で動く。体を更に拡げられると、ぬちぬちと水音が聞こえる。そうされるうち徐々に泰徳の形に慣れてきた。吐息が甘くなるのが自分でもわかった。
「少しずつ前後に動くからな」
澄人の不安を拭いさるためか、泰徳はいろいろ言葉をかけてくれる。
わずかに抜かれた楔が再び打ちこまれた。澄人は細い声をあげてシーツに縋る。
「俺がしっかり捕まえていてやる。お前は感じていればいい」
小刻みに泰徳が腰を振るたび、生々しい肉の動きに体も意識も翻弄される。振り幅は徐々に大きくなり、前立腺を擦られ、突かれると澄人は啼き声を上げた。
「そこっ、そこは、あっ、あっ、いいっ」
目は熱く潤み、溢れた涙はシーツに吸われる。たまらない快感に腰が勝手に揺らめく。それを泰徳の手で押さえられ、深く中を突きあげられた。内壁が引きこまれながら、擦られて蕩ける。奥を突かれるたび頭が真っ白になる。口を閉じることができず、たえず喘ぎを漏らしながら、泰徳の与える悦びに澄人は溺れた。
「そろそろ俺もいく」
泰徳の手が澄人の手を取り、澄人の昂りに添えられた。澄人は自分のものを手のひらにおさめる。
「一緒にいくぞ」
「はい……」
泰徳の指が食い込むほどに澄人の腰を強く掴んだ。そして激しい抽挿が始まった。
敏感になった澄人の内部は引きずり出され、押しこまれ、泰徳のなすがままだ。肉のぶつかりあう音とぬちゃぬちゃとした音が淫らに耳から澄人を犯す。
「ひあっ、はっ、あんっ、あぁっ、んっ」
奥からとめどなく湧いてくる快感の波紋に震えながら、自分自身を慰める。
泰徳様、泰徳、さま、やすのり、さ、ま……
泰徳の剛直が更に深部を突き、澄人の背をそらし悲鳴を上げた。突かれるたび全身が痙攣し、目の奥がまばゆくスパークする。何も考えられない。
「くっ、いくぞっ澄人ッ」
激しい突きあげに、澄人は白濁をシーツの上に放った。ぐっと奥に押しこまれた泰徳の楔に息を呑み、内部に広がる熱さに涙がこぼれてきた。
「澄人……」
確かな腕が澄人を抱きよせ、背に泰徳の胸が当たる。その温もりに更に睫毛を涙が濡らした。幸せだった。愛する人に快楽を教えられて、愛する人に快楽を与えて、その胸の中にいる。これ以上の喜びはない。
達した泰徳のものがゆっくりと出ていくのを感じて、反射的に体が逃がさぬよう締めつけた。
「こら、離せ。初めてのお前に連続は無理だ」
かすかな笑いと労りの言葉に、澄人が力を抜くと泰徳に柔らかく中を擦られて、嬌声を上げた。泰徳の胸に改めて抱きよせられ、何度も口づけられる。
「お前は可愛い。可愛すぎる」
澄人は泰徳の鎖骨に額を当て、小さな声で訊ねた。
「今までの方たちよりも、ですか?」
言ってしまってから、しまった、と思った。恥ずかしさに頬も体も熱くなる。泰徳がくっくっと喉で笑った。
「妬いてくれていたのか」
澄人は体をこわばらせた。優しい手が澄人の背から尻をゆっくりと撫でる。
「ああ、今まででお前が最高だ。一番可愛い――こちらを向け」
澄人は泰徳の顔を見あげた。泰徳が注いでくる視線は柔らかい。
「愛している、澄人」
「俺も、愛しています、泰徳様を」
「泰徳でいい」
澄人は苦笑しながら首を振った。
「呼び捨てなどできません」
「徐々に変えていけばいい」
「では、泰徳さん?」
泰徳が羽のようなキスをくれた。
「今はそれでいい。パートナーらしくになるにつれて、自然と変わるだろう」
澄人は身を固くして泰徳を見つめた。
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