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 ここ数日、体調は安定しているし勉強も忙しいからなどと言い訳をして、プレイをするのを断っていた。  律も「良かった。でも無理はしないこと」と言ってくれたから、バレていないと思っていたし、数年ぶりに使用したせいか、抑制剤はよく効いており、これで律に迷惑をかけずに済むと考えていたのだが……。   「俺とのプレイが嫌になった?」 「……あ、あ」  穏やかな声に含まれた棘に鳥肌がたつ。蒼生は口を開くけれど、意味を持たない掠れた音しか発することができなくなる。  それは、Domである律が発した微弱(びじゃく)Glare(グレア)による反応だった。  Glareとは、威圧を含んだオーラをDomが相手にぶつける行為であり、仕置き中のSubにに向けたり、Dom同士の力関係を決める際に発したりする。  受けたSubがSub drop(サブドロップ)に陥る危険もあることから、感情任せに強いGlare放つことは禁止されているが、今の律は意図的にそれを使っていた。 「悪い子の蒼生には……躾が必要だ」  蒼生と視線を合わせて告げると、ガタガタと体を震わせながらも「ちがう」と掠れた声を発した。 「違うって何が? 俺に隠れて抑制剤を飲んだのは蒼生だよな」  蒼生の訴えていることが、『律とのプレイが嫌になったわけではない』という意味なのは理解していたが、あえて分からないふりをする。 「蒼生、Strip(服を脱げ)、無理ならセーフワードだ」  強いコマンドを使用すると、蒼生は大きく目を見開き、律の顔を見上げてきた。   「蒼生が選んでいい」  細い体を持ち上げて、目の前の床へと立たせてやる。と、すぐに蒼生は自身の洋服へ手をかけた。  セーフワードという選択肢を用意してはあるけれど、実際のところこのコマンドは蒼生とって強制だ。  自分の力が通常のDomよりかなり強いと分かっているから、いつもは自制しているが、今回はそれをしなかった。  彼が抑制剤を欲することは予測していたが、自分以外を頼ったことが腹立たしい。  目の前で、必死にシャツのボタンを外す蒼生の指は震えており、立っているのが困難なほどに膝もガクガクと震えている。それでも、自分のコマンドに従おうとする従順さと健気さに、苛立ちは徐々に薄れていき、愛おしさがこみ上げてきた。 「頑張れ」 「うっ、うぅ……」  時間をかけ、上半身の衣服を脱ぎ終えた蒼生だが、限界が来てしまったようで、ペタリと床に座り込んでしまう。  一瞬、嗚咽を漏らす蒼生を抱きしめたい衝動にかられたが、律は脇下へと手を差し込んで再び彼を立たせてやった。 「蒼生、俺はKneel(おすわり)って言ってない」  自分自身でも驚くくらい冷えた声が空気を揺らす。  怯える蒼生の様子を見ながら、表面にこそ出さないけれど、律は久々の高揚感に包まれていた。

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