40 / 41

39

「ありがとうございます」 「蒼生は頑張ってるからね。送迎はするよ。で、どこの大学が第一志望? ここか都内から通える範囲がいいな」 「大学はまだ決まってないです。だから、オープンキャンパスにも行きたくて……」 「いいよ、それも一緒に行こう。この成績ならどこでも狙えそうだから、いろいろ見てじっくり考えたらいい」 「はい」  時刻は夜の9時を過ぎている。ソファーで(くつろ)ぐ律の前に立っていた蒼生は、見せていた模試の結果を受け取り、再び自室に戻ろうとした。  すると「蒼生」と呼び止められ、「ここにおいで。勉強大変だと思うけど、俺と少し話そうか」と、手招きをされた。 「最近、自分がおかしいって自覚ある?」  (いざな)われるまま隣に座ると優しい声音で問いかけられ、蒼生は内心焦りながらも首を左右に小さく振る。 「いえ、特には……」 「じゃあ質問を変えようか。抑制剤、どうやって手に入れたの?」 「それは……」 「バレないと思った?」  肩を抱かれた蒼生は反射で体を引こうとするけれど、思いもよらない強い力で律の胸へと抱き寄せられた。 「龍真は俺を裏切らないから、可能性があるとすれば……美容室かな」 「……!」  蒼生が体を強ばらせると、「やっぱりそうか」と律は呟く。そして、「蒼生がこんなに悪い子だとは思わなかった」と、耳元で低く囁いた。  (そと)の人間と蒼生が接触する機会は、かなり限定されている。オンラインで授業を受けている予備校と、月に一度通っている美容室だ。その2つのうち、個人的な話ができるのは美容室だと推測した……と律に言われ、返す言葉も浮かばなくなる。  抑制剤を服用したのは受け取ってから2回だけで、こうもすぐにバレてしまうとは思っていなかった。 「あの、僕が無理にお願いして……だから、久保さんは、悪くないので……」 「そうなんだ。けど、処方された薬を他人に渡すのは違法行為だよ」 「違います。あれは市販薬で……」 「なるほど」  顎を掴まれ上向かされ、律と視線が絡み合う。いつものように微笑んでいるが、自分が悪いと分かっているから自然と体が震え始めた。  久保は蒼生を担当する美容師で、彼もSubだということは、最初に伝えられていた。きっと、蒼生が萎縮しないように律が選んでくれたのだろう。 『抑制剤が合ってるから、パートナーがいない時でもDomの担当はできるんだ』  いろいろな話をしているうち、久保が放ったその一言に、 『抑制剤を飲んでみたいが、合うものが分からない』 『試してみたいから、少しでいいから分けてもらえないか』 と、蒼生は思わず懇願していた。  その時は流石に断られたが、先日再び訪れた際、 『効き目はそんなに強くないけど、これなら誰でも買えるやつだから、飲んだこと無いなら試してみたら?』 と、親切な久保は市販薬をくれたのだ。

ともだちにシェアしよう!