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「ありがとうございます」
「蒼生は頑張ってるからね。送迎はするよ。で、どこの大学が第一志望? ここか都内から通える範囲がいいな」
「大学はまだ決まってないです。だから、オープンキャンパスにも行きたくて……」
「いいよ、それも一緒に行こう。この成績ならどこでも狙えそうだから、いろいろ見てじっくり考えたらいい」
「はい」
時刻は夜の9時を過ぎている。ソファーで寛 ぐ律の前に立っていた蒼生は、見せていた模試の結果を受け取り、再び自室に戻ろうとした。
すると「蒼生」と呼び止められ、「ここにおいで。勉強大変だと思うけど、俺と少し話そうか」と、手招きをされた。
「最近、自分がおかしいって自覚ある?」
誘 われるまま隣に座ると優しい声音で問いかけられ、蒼生は内心焦りながらも首を左右に小さく振る。
「いえ、特には……」
「じゃあ質問を変えようか。抑制剤、どうやって手に入れたの?」
「それは……」
「バレないと思った?」
肩を抱かれた蒼生は反射で体を引こうとするけれど、思いもよらない強い力で律の胸へと抱き寄せられた。
「龍真は俺を裏切らないから、可能性があるとすれば……美容室かな」
「……!」
蒼生が体を強ばらせると、「やっぱりそうか」と律は呟く。そして、「蒼生がこんなに悪い子だとは思わなかった」と、耳元で低く囁いた。
外 の人間と蒼生が接触する機会は、かなり限定されている。オンラインで授業を受けている予備校と、月に一度通っている美容室だ。その2つのうち、個人的な話ができるのは美容室だと推測した……と律に言われ、返す言葉も浮かばなくなる。
抑制剤を服用したのは受け取ってから2回だけで、こうもすぐにバレてしまうとは思っていなかった。
「あの、僕が無理にお願いして……だから、久保さんは、悪くないので……」
「そうなんだ。けど、処方された薬を他人に渡すのは違法行為だよ」
「違います。あれは市販薬で……」
「なるほど」
顎を掴まれ上向かされ、律と視線が絡み合う。いつものように微笑んでいるが、自分が悪いと分かっているから自然と体が震え始めた。
久保は蒼生を担当する美容師で、彼もSubだということは、最初に伝えられていた。きっと、蒼生が萎縮しないように律が選んでくれたのだろう。
『抑制剤が合ってるから、パートナーがいない時でもDomの担当はできるんだ』
いろいろな話をしているうち、久保が放ったその一言に、
『抑制剤を飲んでみたいが、合うものが分からない』
『試してみたいから、少しでいいから分けてもらえないか』
と、蒼生は思わず懇願していた。
その時は流石に断られたが、先日再び訪れた際、
『効き目はそんなに強くないけど、これなら誰でも買えるやつだから、飲んだこと無いなら試してみたら?』
と、親切な久保は市販薬をくれたのだ。
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