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第1話
十六歳の頃、女手一つで育ててくれた母親が過労で亡くなった。
あまりにも突然の出来事で、悲しむことすらできずに骨だけになった母親を連れて家に帰ったあの日は、忘れることができない。
入学したばかりの高校は辞め、少しばかりだけれどと母が貯めていてくれたお金で家賃を払い、それだけでは寂しいのでコンビニでアルバイトを始めた。
──そこでスカウトされたのがきっかけ。
「へえ、じゃあ千暁 は天涯孤独ってわけ?」
「いや、父親はどこかにいるかもしれないです。」
「でもどこにいるかわからないんでしょ?」
「まあ……。それにしても、何でそんな事が気になったんですか?」
中性的で整った顔をしている最上 浬 さん、二十八歳。
彼は俺の所属する事務所の先輩で、今一番売れている人。
「いや、千暁ってなんか……ほっとけない雰囲気があるんだよ。一人にしてると何しでかすか分からないって言うか……。何かに夢中になると他の事には気にもかけなくなりそうでさ。恋は盲目、みたいな。だから一緒にいて落ち着ける人とか頼れる人はいるのかなって思って。そういう人がいれば、夢中になっても周りのことを教えてくれるでしょ、その人が。」
「それはつまり、浬さんのこと?」
「えー、俺ぇ?俺はまあ、頼ってもらうのは嬉しいけどぉ。千暁のちんちん大好きだし」
「ちんこだけかよ」
二人でケタケタ笑っていると、「撮影始めまーす!」とスタッフの声が聞こえてきた。
座っていた椅子から立ち上がり、浬さんと手をつなぎ、彼を引っ張ってベッドに連れていく。
「たーっぷり甘やかしてね、千暁ちゃん。」
「満足させられるように頑張ります」
そして間もなくカットの合図がかかった。
■
コンビニでのアルバイト中だった。
昼間の二時。今日はあと一時間で上がれる!とウキウキしていた時、レジにやってきた客の会計を進める。
「ねえ君」
「はい?」
やけに顔が整っている男性だなと思った。
話しかけられて返事をすると、彼は名刺を取り出して渡してくる。
名刺の受け取り方も何も分からなかったので、「はぁ……」といいながらそれを受け取り、代わりにレジを通した品物を彼に渡した。
「仕事が終わったらここに連絡してほしい。」
「……絶対?」
「君が今より稼ぎたいなら」
「……わかりました」
男性は人のいい笑顔を見せてコンビニを出ていった。
客がいなくなったタイミングでもらった名刺を見る。
『代表取締役 三軒家 薫』と書いてあって、頭の良くなかった俺でも代表取締役の意味はわかっていたので、思わず目を見開く。
今より稼ぎたいなら……と言っていた。
正直貯金を切り崩しながら、一日中アルバイトをして、それでも稼げるお金は少ない。
退勤時間になり、バックヤードに戻って服を着替え、家に帰ってからもその名刺を睨みつけて、やっと電話をかける。
数コールで繋がったそれに「コンビニの……」と伝えると、三軒家さんはすぐに分かったのか嬉しそうな声で「かけてくれたんだね」と言った。
「うちは芸能事務所なんだ。芸能界に興味はない?」
「え……芸能界……?」
「そう。……あ、年齢は?」
「十六、です」
「じゃあ十八歳になるまでアルバイトとして働かない?それでも、コンビニよりは稼げると思うよ。……まあ、電話だけじゃ信憑性がないと思うから、今日の夕方か明日にでも、事務所で話をさせてほしい。都合はどうかな」
コンビニより稼げる。その一言は俺を動かすには充分で、気がつけば今日の夜に!と言っていた。
名刺に書いてある住所まで来てほしいとのことだったので、約束の時間になるとそこのインターホンを鳴らした。
ドアが開いて三軒家さんが出てくる。
中に通され、案内されたフカフカのソファーに腰掛けた。
「芸能事務所、といってもうちはアダルトコンテンツ中心でね。」
「アダルト」
「そう。だから十八歳、それも十九歳になる年の四月までは下積みの雑用をしてもらうことになる。」
「……それが過ぎたら?」
「そりゃあもちろん、キャストとして頑張ってもらうよ。それもゲイビデオのね。」
「っゲイ!?」
「そう。君、すごく好かれる顔してるし、体付きも十六歳には見えないくらいガッシリしてるからね。」
三軒家さんはニコニコ話しているけれど、俺の頭はパニックだった。
芸能界、ゲイビデオ、AV、キャスト。
ポカンとする俺に「大丈夫」と言う彼。
「うちは珍しく超ホワイトな事務所だから、怖いことは無い。プレイによっては痛いことをさせるかもしれないけれど、体に傷は残らないようにする。楽しく働くことがモットーだからね。それに今売れてるビデオに出てるキャストはほとんどうちの事務所に所属してるよ。」
ホラ、と見せられたビデオのパッケージ。
未成年に見せるなよと思いつつ、それを見るととってもエッチなお兄さんがいた。
■
「っあ、もうイクっ、あ、イクイク──ッッ!」
パッケージに載っていたエッチなお兄さんの一人が、浬さんだ。
ビュクビュク射精した彼と、同じタイミングで中出しをして律動をやめる。
カメラが蕩けた表情の彼をアップで撮った後、戻ってきたカメラに、ペニスを抜いて中に出した精液がトロトロ溢れた様子を撮ってもらってから、汚れたそれを浬さんの口元に押し付けた。
「ん、ふぅ、む……」
「はぁ……」
器用に舌を使ってペニスを綺麗にした後、うっとりしている彼にキスをして、終了。
カットが掛かってもくったりしている浬さんに、急いでバスタオルと水を持ってきて介抱する。
「浬さん、大丈夫?きつかった?」
「ぁ、いや……中でイったの、気持ちよすぎて……」
「水は?飲む?」
「飲む」
バスタオルで彼の体を包み、水を飲ませると少し落ち着いたようで、「よいせ」と言って立ち上がった彼を支えるようにしてシャワーを浴びに行く。
「あー、気持ちよかった。久々に撮影で満足した。」
「それはよかったです」
「中の出して」
「じゃあちょっと屈んでください」
十九歳になった頃、初めてゲイビデオに出た。
それまでに何度か手ほどきを受けていたけれど、カメラの前となると緊張して上手く動けずにドギマギしていた俺をサポートしてくれたのが浬さんだ。
えっちな顔と体で、カメラに意識が向かないようにめいいっぱい俺を誘惑した。おかげでノンケだったはずの俺は惚れてしまった。
結局そのビデオは売れに売れたらしい。
初めはネコ役もさせられると思っていたけれど、タチ役で大分と売れたとか何とかで、二十三になる今もタチ一本で稼げている。
「今度代表に千暁にオナホにされるビデオ撮りたいって言ってみよ」
「えー、オナホぉ?浬さんを?」
「うん。イッてるのにイッちゃうを体現したい」
「それ絶対苦しいと思う」
中に出した精液を掻き出してあげる。
綺麗になると「お礼」と言われキスをされた。
「浬さんってモテるでしょ」
「ええ、何急に。そりゃあモテるよ」
「年上に甘えられると、グッとくる」
「俺のこと好きになる?」
「ずっと前から好きだって言ってるでしょうが」
そう。俺は浬さんに恋をしている。
浬さんはいつだってはぐらかすけれど、気持ちを伝えるのはやめない。
「あはは、千暁って可愛いよねぇ。じゃあデートしよ。」
「デート?どこに行きたいんですか?」
「俺の家。お家デート。」
「行く」
「即答かよ」
ケラケラ笑う彼に「じゃあこれから行こっか」と言われ、大きく頷いた。
それぞれシャワーを浴び終え、浬さんの車に乗る。
「あ、今日泊まる?」
「いいの!?」
「いーよ。ご飯どうしよっか」
「俺作れるよ」
「まじぃ?じゃあ食材買ってく?ちなみに俺はハンバーグが食べたい気分」
「買ってく!」
途中でスーパーに寄って食材と酒を買い、浬さんの家に向かう。
靴を脱いで手を洗い、食材を一度冷蔵庫に入れると、彼に手を引かれてソファーに座った。
「千暁ぃ、またセックスしようぜ。千暁に抱かれたの久しぶりで気持ちよかったから、まだうずうずしてる。」
「うん。顔がまたトロンってしてる。撮影中みたい」
「だってさぁ、お前本当、上手すぎるんだもん……。大体演技で済ますのに、お前としたら本当にイっちゃうし……前の撮影の時も潮噴いて恥ずかしかった。」
「男冥利に尽きます」
膝の上に向かい合わせになって座った彼は、俺の首に腕を回して何度も何度もキスをしてくる。
可愛い。好きな人にキスをされると気分が上がる。
彼の服の裾から手を入れて、背中を撫でる。
つやつやの肌が吸い付くようで触り心地も最高だ。
「服、脱げる?脱がしてほしい?」
「脱がして」
耳元で返事をした彼に、そのまま耳朶を甘噛みされた。ピアスがカリッと音を鳴らす。
シャツを脱がせ、上裸になった彼は、口角を上げて待っている。
「浬さんの体って本当エロい」
「乳首ちゅぱちゅぱしたい?」
「うん。してもいい?」
「いっぱいして」
薄ピンクのそこに唇を寄せてちゅっと吸う。
浬さんは小さく声を漏らして、乳首を噛めば小さかった声は大きくなって、彼の股間は段々と主張を始める。
「あ、ぁ……噛ま、ないで」
「噛んだらここ、ビクビク反応してるのに?」
「んぅ、きも、ちいから……っ」
「……可愛すぎるだろ」
背中を反らし、自然と胸を突き出す格好になっている彼にキスをして、そっとソファーに寝かせる。
「ここでしてもいいの?」
「ん、どこでもいい……っ」
「そう。下も脱ごうね」
「っ、千暁って、たまに俺の事、年下みたいに甘やかすよね……」
「そうかな。でもどうせ抱くなら相手にも満足してほしいから」
「人たらしだし」
「まあプライベートで抱くのは浬さんだけなので、甘やかすのも浬さんだけですが。」
「俺だけなの?」
「そうですよ。好きな人なので。だから甘えてもらいたいし、優しくしたい。」
「……」
全裸になった彼に覆い被さってもう一度キスをする。
乳首を抓りピンッと弾いて、声を漏らす浬さんが可愛くてドキドキする。
暫く乳首だけをいじっていると、焦れったくなったのか彼は涙目で俺を睨んだ。
そろそろいいか、と足を開かせ後孔に指を入れると、撮影があったおかげでトロトロ蕩けている穴はクパクパ収縮し指を締め付けた。
「あっ、ぁ……」
「力抜いて」
「ぁ、や、やべ、気持ち、よすぎ」
「まだ指だけだよ」
「っ!ぉ、あ!」
前立腺をクイクイ突くと、彼は背中を反らして絶頂した。
構わず中を弄り、奥を突く。
中がギューッと締まり、ハクハク呼吸をする彼が手を伸ばしてきて、後孔を弄る俺の手首を掴む。
「い、った、から……っ」
「でもさっきオナホにされるビデオ撮ろって言ってたよ。こんなんじゃできないね」
「っ、お前」
「俺は楽しいからなんでもいいけど」
指を抜いて、下履きをずらす。
僅かに勃起したそれを浬さんの顔に寄せて「舐めて」と言えば、彼は体を起こしてそれをパクッと咥えた。
ジュブジュブ音を立てて口で扱かれる。
フェラをしている時の顔ですら可愛いと思うのだから、俺はかなり浬さんに惚れているみたいだ。
チラッと上げられた視線。胸がズクっとした。
「浬さん、立って。そこに手ついて」
「ぇ、あ……立ちバック……?!」
「寝バックでもいいけど」
「何でバックばっかりなんだよ、顔見れないじゃん」
「俺の顔みたいの?」
「……みたい」
そんなこと言われるとは思ってなくて、胸をドキドキさせながら立ちバックをやめ、ソファーに仰向けに寝かせて足を抱えさせた。
ゴムもつけずに、クパクパしている後孔にペニスをあてがい、一気に奥まで挿入する。
「っあ!あぉぉ……っ!」
「おお、トコロテンしてる」
中が良く締まって気持ちいい。
目を閉じて感じ切っている彼が落ち着いて、中が馴染むまで待った後、タンタンと律動する。
まだ話せるくらいの余裕ができるように、無理をさせない程度で。
「んっ、千暁……っ」
「足、抱えてられなさそう?」
「ん、無理、もう無理……」
「じゃあこっち」
手に力が入らなくなってきたのか、足をぶらぶらさせる彼。
横向きにさせると中に当たる角度が変わって、さっきよりも漏れる声が高くなる。
「あっ、あ、すごい、千暁……っん、気持ちいい、やばい、またいく、いく、中で、あっ、中でイっちゃ、う……っ!」
「いいよ、イって」
彼の体に一瞬力が入り、細かく震える。
一気に脱力して、ふにゃふにゃになっている所を動いて、奥を突くと、固く閉ざしていた壁がフワフワしだしたのを感じる。
うつ伏せに転がして足を伸ばさせ、壁に先端をグーッと当てると、慌てて「やだ」を繰り返し始めた彼。
項にキスをして、耳を舐め、耳朶をガジガジ甘噛みした。
「力抜いて……そう、じゃあ次はぐーって力んで……それ繰り返そうね。そしたら気持ちいいからね」
力むことで奥に入りやすくなる。
彼はプロで、俺より歴が長いのでそんなこと知っているのに、俺とする時は──特にプライベートの時は気持ち良すぎて嫌だとぐずることがあるから、いつもこうして宥めている。
深く息を吐いて力を抜いた彼。次に力んだタイミングで結腸をこじ開けて奥まで挿入した。
「っ、ぐ、ぅ、あぁぁっ!」
「あー、気持ちいい。ああ、暴れないで、ほら、気持ちいいよ。大丈夫、大丈夫。」
何とか快感を逃がそうとする彼を押さえつけ、奥に挿れた状態で止まる。
フーッフーッと荒い呼吸をする彼の頬にキスをして、少し落ち着いた頃に律動を始め、奥を出たり入ったりすると、彼は泣いて善がった。
「あーっ、あ、あぁ……っ!おく、おく、いく、イクっ、いや、ぁ、しお、噴いちゃうっ、ぁ、ちあき、ちあきぃっ」
「うん、上手に潮噴こうね」
「あ、あーっ、ぁ、あ、あっあっ、──ッッ!!」
びちゃびちゃ、水音がしてソファーが濡れていく。これは後で弁償しなきゃなと思いながら、撮影の時とは違う演技抜きの、本気で感じてる姿に興奮する。
いやいや首を振る彼に何度も何度も好きって伝えると、「しつこいぃっ」と泣きながら言われて。
「出たり入ったり、気持ちいい?俺、すごく気持ちいい。」
「っん、気持ちいい……っ」
「俺と付き合ったら、これ、いつでもできるよ。いっぱい、気持ちいいこと、できちゃうよ。」
「あうぅっ……」
「ね、付き合おうよ」
「ひっ、ひぃっ、ぁ、いく、いくいく……っ」
「あー、俺も出る……っ」
浬さんの足がピンッと伸びる。
奥まで入れたまま、律動をやめて射精した。
息を整えていると、顔だけ振り返った彼が「千暁……」と俺の名前を呼んで、顔を近づけるとキスをしてくれる。
「つ、付き合う、から、もっと、して……」
「……マジ?」
「ん、もっといっぱい、奥に出して」
頭の中がパラダイスだ。
目を見開いていると、太腿をパシッと叩かれる。
「早く、動いてよ……!好きな人の、頼みだよ」
「あ、アイアイサー!」
そうして彼が満足するまでその行為は続き、すっかり満足してから見た部屋の惨状に彼は怒り、それでも謝って片付けをしたら許してくれたし、ハンバーグを作れば喜んで食べてくれたし、年上のくせに可愛い恋人ができて、ひたすら幸せな俺でした。
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