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いつかのさけ26
「ありがとな」
岡崎は真っ先にあんこうへと箸を伸ばす。柔らかくなった身をそっと掴み、少し冷ましてから口へと運ぶ。
味噌の風味がじんわりと広がっていく。そこまでしつこさはなく、割とさっぱりしたその風味はどんどん食べることを促すような味であった。
口の中が空になると、今度は野菜を口にする。ある程度の食感を残しつつ、しっかりと汁を吸い込んだ野菜は、噛めば噛むほど深い味わいを出していた。
そんな岡崎の様子を眺めている桂木は、早く自分も食べたくてしょうがなくなっていた。
片倉がすっと差し出すと、それを受け取るなりすぐに掴んで口にしていた。熱さなんて関係ない、ただその味を楽しみたいという一心であった。
一気に広がる熱を冷ましながら桂木はその味を堪能していく。徐々にその味が染み渡っていき、彼の口からは溜め息が漏れた。
「美味い……」
ボソリと一言だけ呟き、完全に無言になってしまった。
ふと前を見ると、岡崎が酒を手にして飲もうとしていた。
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