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いつかのさけ32

 トイレから出てきた若松は、店の入り口にあったベンチでタバコを吸っている片倉を見つけた。音を立てないようにゆっくりと近付いていく。 「あ、若松さんも席を外したんですね」 「……鍋、もっと食べたかった」 「しゃーないですよ。また今度にしましょう」  ふーっと吐きながら喋る片倉。その表情は酔いが完全に覚めている。 「……いい加減、あの二人もお互いに好きだってことを自覚してもらいたいですよね」 「桂木は、結構鈍感だから。モテてたけど、相手から一方的だったから」 「そういえばそうでしたね。岡崎さんにだけはやけに懐いてましたけど」  若松は片倉の横に座りながら、遠くを眺めるようにして話す。  二人は学生時代の頃から現在に至るまでの桂木を思い出していた。常に岡崎と行動していた桂木の姿は、当初は犬のようだと言われていたが、徐々に変化していったようだ。

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