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第一章・2

「どうしよう、これから」  施設で育った蓮には、頼れる人がいない。  帰る場所も、無い。  安アパートに独りで住んでいるが、いくら安いとはいえ家賃は出ていく。  光熱費も、支払わないといけない。  すぐにでも、働き口を探さねばならない。  そんな蓮がふらふら歩いていると、急に声を掛けられた。 「篠原くん、じゃないの?」 「……えっと。あ……」  ラウンドフレームの眼鏡をかけた、中肉中背の男。  彼は、蓮が勤めていた店の、常連客だった。  男は蓮に追いつくと、親し気に話しかけて来た。 「今から、バイト?」 「あ、いえ。あそこはもう、辞めました」 「え~? じゃあ、通う楽しみが、なくなっちゃったなぁ」  男は、重ねて訊いてきた。 「次のお仕事、決まったの?」 「いいえ。僕、オメガですから難しくて」  いいえ、との言葉を聞くと、男はさらに身を寄せて来た。

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