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第一章・3
道端では何だから、と男は蓮を手近なカフェに誘うと、名刺を出した。
『ヴァニラ・クリエイト 代表取締役 五木 新伍(いつき しんご)』
「お若いのに、社長さんなんですね。すごいなぁ」
「いやいや。仲間内で、じゃんけんに負けたからなんだよ」
本題に入ろう。
五木はコーヒーを一口飲んで喉を湿らせると、蓮を口説きにかかった。
「篠原くんに、ぜひうちの専属モデルになって欲しいなぁ、って思って!」
「モデル、ですか!?」
「バイト姿を見るたびに、いつか誘いたいと考えていたんだよ」
「で、でも。僕なんか」
幼い頃から、引っ込み思案だった蓮だ。
学生時代も、陰キャとして通って来た。
そんな僕が、モデル!?
「恥ずかしいから、ダメです」
「恥ずかしくなんかないよ。君でしかできないシチュが、閃いてるんだ」
「僕でしかできない?」
「そう。海でね、波と戯れてくれるだけでいいんだ。それだけで、OK」
それなら。
(それくらいなら、僕にもできるかもしれない)
そう思った蓮が契約書にサインをするには、さほど時間はかからなかった。
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