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第四章・9

 巴は、我慢できなかった。  この可哀想な、それでも強く生きていこうと頑張っている蓮を、励ましたい。  その一心だった。  酒に酔っているので、タクシーで彼のマンションに向かった。  この時はまだ、そのくらいの分別は付いていた。  理性のタガが外れるのは、蓮の顔を見てからだった。  彼の目は、涙で赤くなっていたのだ。 「泣いていたのか?」 「巴さんが、あんまり優しいから……」 「蓮。絡みが嫌なら、断ってもいいんだぞ」 「いいえ、やります。僕、変わりたいんです」  今まで、世界の片隅で、ひっそりと生きて来た。  他人に、踏みにじられる毎日だった。 「そんな僕を、主役にしてくれるのが、今のお仕事なんです」 「何て健気な……」  巴は、もう我慢ができなかった。  蓮を引き寄せ、強く抱いた。  抱きしめた。 「巴さん」 「好きだ、蓮」  蓮の腕が、おずおずと巴の体に回された。

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