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第八章・2

 ある特別な日、巴はぐっすり眠っている蓮のマンションに忍び込んだ。  忍び込んだ、とは言っても、合鍵は渡されている身だ。  ただ、ちょっとした悪戯心を胸に秘め、足音を立てないように気を付けながら室内へ入った。 「蓮」 「……」  起きないことを確かめると、巴は蓮をそっと抱き上げた。 「ん……、んん?」 「蓮、これは夢だ。眠っててもいいんだよ」 「ぅん……」  眠る蓮をアウディに運び込み、巴は夜の高速を走る。 「起きたら、驚くぞ」  久々の、心躍る企みだった。  車はコテージの車庫に入れ、巴はそのまま朝を待った。  蓮には風邪をひかせないように、気を付けながら。 「ぅうん、ん……。あれ?」  目を覚ました蓮は、自分がベッドに居ないことに気が付いた。 「おはよう、蓮」 「巴さん……?」  ガレージの中の車内は、真っ暗だ。  声と匂いで、蓮は巴の存在を知った。 「誕生日、おめでとう!」  巴の優しい声と共に、ガレージのシャッターが開いた。

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