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第九章・4
「僕がやります」
「いいから」
体を離した巴は、蓮の体を拭き清めた。
優しく、ていねいに。
「明日は朝から、シャワーを浴びるんだぞ」
「はい」
ホントは、この巴さんの名残のまま、大切な舞台に立ちたいな。
(そしたら、巴さんが一緒にいてくれるような気がするから……)
巴は自分の体も拭き、蓮の隣に横たわった。
「蓮」
「何ですか?」
「愛してるよ」
「……僕もです。愛してます」
抱きしめ、額にキスしてくれる巴。
いつもの、優しい巴だ。
だが、蓮はなぜかその言動に違和感を覚えていた。
(何か。どこかがいつもの巴さんじゃないみたい)
そう感じると、不安になる。
蓮は、巴に強く抱きついた。
「どうした?」
「何だか、今夜の巴さんは遠いです」
「私は、ここにいるよ」
「絶対ですよ?」
愛してます、と繰り返しながら、蓮は寝入った。
「愛してるよ、蓮。いつまでも」
そして、巴も瞼を閉じた。
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