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第九章・8

「彼のことだ。きっと、自分と付き合っていると醜聞になる、とでも」 「しゅうぶん?」 「スキャンダル、と言うのかな。今は」  泣き目の蓮の隣に、尾崎は掛けた。  背中をさすり、そして諭した。 「彼のことが本当に好きなら。愛してるなら、悔いの無い行動を起こすといい」 「悔いの無い行動、ですか?」 「そうだ。でないと、死ぬまで後悔することになる」  私にも昔、心から愛した人がいてね、と尾崎は語った。 「でもやっぱり、その人も。極道の組長なんかと付き合うな、って離れていってしまった」 「そんな」 「その時の私は、人気が絶頂だった。仕方ないか、と諦めてしまったんだ」  そして、あの男は。  国英は、私を残して早くに死んでしまった。  尾崎の目にも、涙が光っていた。 「篠原くんは、私のような思いをしないように。好きな人は、しっかり捕まえておきなさい」 「はい!」  蓮は、涙をぬぐった。  負けるもんか。  僕、負けませんから。巴さん!

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