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第九章・7
「巴さん、冗談はやめてください」
『蓮。私と付き合うと、君に不利なんだよ』
「なぜ、ですか」
『篠原 蓮が、元・極道の組長と付き合っているとなると、スキャンダルだ』
蓮の目に、涙が浮かんできた。
「でも。巴さんは、もう足を洗った、って」
『世間は、そう見ないだろう。辛いが、これは蓮のためなんだ』
「巴さん!」
『さようなら。でも私は、ずっと蓮のことを推し続けるよ』
通話は、巴の方から一方的に切られてしまった。
「……嘘。嘘だ、嘘ですよね、巴さん」
楽屋でうずくまっていると、蓮の肩に手が置かれた。
「どうしたんだい?」
「尾崎さん」
優しいおじいちゃんのようだった、尾崎。
蓮は、彼に何でも打ち明けられるほど懐いていた。
「巴さんが。僕の好きな人が、別れよう、って」
「加賀 巴さんだね?」
尾崎は、考えを巡らせた。
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