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第九章・10

 社長室に通された蓮は、ようやく落ち着いた様子で出されたコーヒーを飲んでいる。  巴は、花束を手にその様子をうかがっていた。 「で、結婚してくれ、とは?」 「言葉通りです。巴さん、僕のパートナーになってください」 「電話で言ったな? 私と付き合うと、君が不利になる、と」 「僕、有利不利で巴さんと付き合ったことなんか、一度もありませんから」  参ったな、と巴は頭を掻いた。 「蓮。私と結婚なんかしてみろ。それはそれは、大変なことになるぞ」 「炎上しても構いません。むしろ、隠すよりいいと思います」  僕は、後悔したくない。  蓮のまなざしは、大人の光を帯びていた。 (子どもだとばかり思っていたが。いつの間に、こんなに逞しく)  それは嬉しい事だったが、巴は首を横に振った。 「炎上すると解ってる道を、君に選ばせたくない」 「尾崎さんのお話しを、します」 「尾崎さん?」  蓮は、語った。  尾崎と、巴の祖父・国英が愛し合っていたことを。  身を引いた国英は、尾崎を残して早逝した。  尾崎は、今でも国英と別れたことを後悔している、と。 『彼のことが本当に好きなら。愛してるなら、悔いの無い行動を起こすといい』  そして蓮は、行動したのだ。

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