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第12話 懐かしい自宅

 夕暮れの中に佇む自宅が、なんだか懐かしい感じがする。  どこにでもあるグレーの壁の一戸建て。金曜日の朝ぶりに、俺は自宅に帰還した。  早く自室で横になりたい。  そう思った俺は親に、夕飯は後で食べると告げ、そそくさと部屋に向かった。  六畳一間の俺の部屋。  ベッドと座卓と、クローゼットに本棚。  俺はショルダーバッグを本棚のそばに放り投げると、ぼす、とベッドに寝転がった。  あぁ、自分の部屋の匂いがこんなにも落ち着くなんて。  やべえ、このまま寝そうだ俺。  疲労感が酷い。  俺は枕を抱きしめて、この数日あったことを思い出した。  発情期を迎えたらしい宮田に迫った千早を止めたことから、なぜかあいつの部屋に連れて行かれ、あれやこれやとされて。  番になるよう求められた。  ……やっぱこれ、夢じゃねえの?  試しに俺は頬を引っ張ってみる。  痛い。  ってことは夢じゃねーのか、あれ。  まあそうだよな。  だって滅茶苦茶身体つれーもん。  まだ尻に違和感ある。  あいつの部屋を出る前も突っ込まれたしな……  中に出されてないだけましか。  それ以外は玩具突っ込まれてアンアン泣かされて。  身体に、脳に、快楽を刻み込まれた。  やべえ。  思い出したら変な気分になってきた。  寝よう。  身体は疲れてるんだから。  目を閉じると、あっという間に眠りに落ちていった。  目が覚めて、辺りを見回しここが自室である事を認識し、思わずほっとする。  電気をつけたまま寝てしまったため、室内は明るかった。  枕横に置いたスマホを掴み、時間を確認すると二十一時を過ぎたところだった。  家に帰って来たのが十八時前だから……三時間くらい寝ていたのか。思ったより経ってなかった。てっきりもう真夜中かと思ったのに。  そこで始めて腹が減っていることに気が付き、俺は重い身体を押して、ベッドから立ち上がった。  夕食を取りシャワーを浴びて、自室に戻る。  時刻は二十二時過ぎ。  何もする気にならず、俺はベッドに寝転がり毛布をかぶった。  千早の言う番って、要はセックスの相手をする、ってことだよな。それってセフレてこと?  ……そう思うとなんか微妙な気持ちになる。  しかも俺、週に四日もあいつに抱かれるわけだよな。  顔を合わせていない時は自分でやれとか無茶苦茶だろ。  でも押し付けられた玩具を俺はちゃんと持ち帰って来た。  家族に見られたらまずいので、ベッド下の引き出しの、奥深くに隠してある。  昨日も今日も、散々玩具で中をかき回された。  そのおかげでだいぶ拡張されたらしいが、その事実が恥ずかしくて仕方ない。  目を閉じれば思い出す、千早にされた数々の行為。  キスをされ舌を吸われ、乳首をいじられて……   頭の中に浮かんだ映像を消しさることなどできなくて、俺は、我慢できずスウェットの隙間から手を突っ込みペニスを握った。  それはすでに硬くなり始め、腹の奥がじんじんと熱くなっていく。   「あぁ……はぁ……」  千早にされたことを思い出しながら、俺はペニスを扱いた。 『先走りでびしょびしょだな、ここ』  耳の奥に響く、千早の声。 「ん……あぁ……」 『後ろの穴、ぱっくりと口開けて、ひくひくしてるぞ?』  妄想の中の千早が俺を煽り立てていく。  今日もさんざん抱かれて、玩具で中をぐちゃぐちゃにされたのに。  なんで俺、こんな気持ちになってるんだ?  だめだと思うのに手の動きは止まらず、俺はあいている手で乳首を摘みあげた。  痛みはすぐに快楽へと変わり、もっと欲しいと脳が訴える。   「千早……」  あいつの名を呼び、俺はどんどん手の動きを早めていった。  やばい、止まんない。  千早との時間を思い出すだけでもっとしたくなってくる。  ペニスと乳首の刺激だけでは物足りず、中が切なげに収縮を繰り返している。  って、なんで中に欲しいとか思ってんだ、俺?  前だけでイけたはずなのに、物足りなさに身体が疼く。  何だよこれ。  挿れてぇ……中に挿れて、ぐちゃぐちゃにしてぇ……  今日散々やられたってのに、本能が千早を欲している。  俺、こんなに淫乱だったっけ? 違う、そんなんじゃない。  年頃だし自分ですることはあったが、いたってノーマルだ。尻に玩具挿れて楽しむ趣味はなかったはずなのに。  千早との狂った時間は、俺を変えるのに充分だったらしい。  でも今から腹ン中綺麗にして……なんてやってらんねぇよ。  あぁ、イきてぇのに、これじゃあ全然物足りねーじゃねぇか。  千早の馬鹿。こんな風にしやがって、責任取れよ……!  俺は、心の中で千早に悪態つきながら、イけないことにもどかしさを感じていた。  翌朝。  結局あのあとイけず、疼く身体を鎮めることもできなくてよく眠れなかった。  あー、マジかよ。  俺、もしかして尻に突っ込まねぇとイけなくなったのか?  もやつきながら俺は、駅から大学までの道を歩く。  天気は薄曇り。もしかしたら昼過ぎから雨が降るかもしれないと言うので、とりあえず折りたたみ傘は持ってきた。  白い空を見上げ、俺はため息をつく。  ほんとに俺、尻に玩具つっこまねぇとイけねぇのかなあ……  ……今日、試せばわかる……? 『これ持って、自分でやってみろ』  頭の中で、千早の声が繰り返し響く。  あいつの声は麻薬か何かか?    頭で響く千早の声は、甘い響きで俺の心をかき乱していく。  俺はぶんぶんと首を横に振り、人の流れに乗り大学へと急いだ。

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