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第40話 匂いに狂う★

 二十一時半を過ぎた夜の駅前。  酔った学生たちがにぎやかに駅構内へと向かって行く。  それを横目に見ながら、俺はコンビニへと急いだ。  日が暮れたとはいえ、気温は高いままだ。  じわりとにじむ汗を手の甲で拭い、足早に歩く。  コンビニ前に着くと、千早が店内から出てきた。  人々がすれ違う中、千早と視線が絡まる。  笑い声の響く中に、千早が俺の名を呼ぶのがはっきりと聞こえた。 「琳太郎」  黒とグレーの縞模様のTシャツを着た千早が、こちらに近づいてくる。  そして、俺にスポドリのペットボトルを差出し微笑んだ。 「お疲れ様」 「あ、ありがとう」  差し出されたペットボトルを受け取り、俺はふたを開けて口をつける。  バイト中も、水分はこまめにとるように言われていて、ちゃんと飲み物を飲んでいるけれど、思った以上に喉は渇いていたらい。  スポドリはあっという間に半分なくなってしまう。  ペットボトルから口を離し、俺は大きく息を吐く。   「暑いし、早く行くぞ」  千早の手が、俺へと伸びる。  その手を俺から掴むと、驚いたような顔をする。 「あぁ、俺、早くシャワー浴びたい」  そう言って俺は千早の手を掴み、彼のマンションの方へと歩き出した。  千早の部屋のリビングに着くなり、後ろから抱きしめられてしまった。  せめて荷物とかおろさせろ、と思ったが、なんだか千早の様子がおかしい。   「……匂いがする」  千早はそう呟き、俺のうなじに顔を埋めた。  匂い。  誰の?   「千早?」 「あいつの匂いだけじゃない……この匂い……」  と言い、千早は動かなくなってしまう。  その言葉で俺は昼、瀬名さんに言われたことを思い出す。  ――オメガの匂いがする。  部屋に行っただけなのに、匂いがつくものなのか?  こんな風に接触したわけでもないのに。  千早の息が荒い。  明らかに様子がおかしい。   「ち、千早?」 「……なんであいつの匂いがするんだ」  低く呻くように、千早が言う。 「何でって……昨日、家に行ったけど……それだけだし何もねえぞ」 「あぁ、だからか」  そう呟き、千早は俺のうなじに口づける。 「千早?」 「琳太郎、俺……無理だ」  何が無理なのか問う間もなく、千早は俺のうなじにがぶり、と噛み付いた。  明らかにいつもと違う。  シャワーを浴び、身体を綺麗にするまでは良かったけれど。  風呂場でろくに解しもせず貫かれて涙が滲む。 「いた、い……ちは、や……」 「中、柔らかいな、琳。すぐに俺のを全部飲みこめるようにまでなった」 「……う、あ……」  バスタブを掴み、痛みをこらえながら俺は何が起きているのか考えた。  宮田の部屋に行ったせいなのか、彼の匂いが俺に着いたのだろう。  それで千早がおかしくなった?  そう言えば、千早は言っていたっけ。  匂いで、宮田が発情したのがわかったと。  アルファもオメガも、互いに匂いを纏っている。  俺にはわからない匂い。  その匂いで、こんな風におかしくなるのかよ。  こんなんで、運命に抗えるのか?   「ち、は……あぁ!」  最奥を強引にこじ開けられ、俺は天井を仰ぎ声を上げる。   「奥はきついな」 「う、あ、あ、うご、くな……」  千早が動くたびに痛みは徐々に快楽に変わり、じわりと熱が拡がっていく。   「ここまで開発した甲斐があったよ、琳。ほぐす必要もないんだからな」 「ち、はや……いっ……!」 「中、出すからな、琳太郎」 「あ、だ、めだって、ちはや、ちは……」  俺の拒絶の声は虚しく、シャワーの音にかき消されてしまう。  千早は俺の奥に中出ししたあと、ずるりとペニスを引き抜き俺の身体を抱き上げた。  歪む視界に映る千早は、なぜか笑っていた。  中に出されたものを綺麗にされることもなく、そのままベッドに連れて行かれてしまう。  今度は正常位で貫かれ、俺は覆いかぶさる千早に手を伸ばした。 「い、あ……」 「いい顔だな、琳太郎」  そう呟き、千早は俺に口づける。  激しく動く舌に、流し込まれた唾液が混ぜられ、ぴちゃぴちゃ、と音を立てている。  痛みはすでに快楽となり、俺の思考を溶かしている。 「いい、千早……奥、来て……」  口づけの合間に俺が言うと、千早はぐい、と奥まで腰を埋めた。  すると涙に滲んだ俺の視界は白く染まり、絶頂が近いことを告げる。   「千早、でる、から……ち、は……」 「イけよ、琳太郎。今日は、壊れるまで抱き潰してやるから」 「……あぁ!」  千早にしがみ付いたまま、俺は達し、互いの腹を汚す。  それでもかまわず千早は動き続け、俺の中を蹂躙し続けた。  何度、千早が俺の中に出したのかわからないし、俺も何度達したのか数えてなどいられなかった。  やっと解放された時、ぐったりとする俺の耳元に唇を寄せ、 「――ごめん」  と囁かれた気がした。

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