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<4> 2回目編
俺の人生の中で一番大切な思い出になった、ホテルで結ばれた次の日。
父さんは「走って疲れた……」と、家に着いた途端「ちょっと寝る」と言ってダウンした。それもそうだ。
あれだけ……俺に、その……入れられて、よく橋の端っこまで走ったなと思う。けど……もしかすると、気恥ずかしさを誤魔化そうとしていたのかもしれない。そう思うといじらしくて可愛くて、愛しさがぶわっとこみ上げた。
俺も身体は疲れているのに、父さんとエッチしたことがまだ信じられなくて、何回も思い出して……神経が高ぶってギンギンに目が冴えていた。何かしていないと落ち着かず、掃除機だと起こしてしまうからクイックルワイパーをかけて、風呂掃除をして窓を拭き、キッチンのコンロをピカピカにした。
夜になって、トモ兄が仕事から帰ってきた。
「……おかえり」
自分が帰ってきた側のくせにそう言って、しらーっとした顔でリビングの入り口で仁王立ちになる。
「ふ――ん……」
父さんはさっき起きてきて、疲れてるのか寝起きでだるいのか……おそらく両方だろう……部屋着のまま、頭を掻きむしるようにしてうなだれている。その気だるげな雰囲気も、色気がダダ漏れていてドキドキした。
「どうだったの」
「……美味かったよ、飯」
俺とした余韻が残る掠れた声で、本当のことを言う。嘘は言ってない。絶妙に誤魔化す。けど俺は正直、そのあとのセックスがすさまじすぎて、おしゃれなレストランで何が出てきたのか、あんまり覚えていなかった……。
トモ兄はこっちをジトっと見つめてきて言った。
「童貞はどうせ入れた瞬間イッたんだろうな」
図星を指されて、カーッと頭に血が上る。
「知ってる? お前、そういうの早漏って言うんだよ」
「う、うるさ……っ」
「はい、童貞卒業おめでとう!」
動けないからなんか買ってきてって言われたから、お前の赤飯も買ってきたよー♡ と、嫌味ったらしく語尾にハートを飛ばしたあげく、赤いお米と豆が覗く袋をこれみよがしに目の前に置かれた。全然嬉しくない。
「……お前が童貞捨てたときはどうだったんだよ」
「う……」
まさかの父さんのフォローが入って、トモ兄が押し黙る。助け舟が入ると思わなかったからすごく嬉しくて、めちゃくちゃスカッとした。
「智樹さん、なーんで樹生の味方するのー!?」
「大人が張り合うな……」
大人げないトモ兄がデパ地下で買ってきたものを開けて、レンジに入れたりトースターで温めはじめたので、俺もさっき作った味噌汁を温めてよそった。父さんとキッチンにいてもあんまり圧迫感はないけど、トモ兄と一緒だとむさ苦しいし狭い。
「味噌汁あったんだ」
「さっき作った」
父さんが何も食べられないかもしれないと思って、味噌汁にご飯を入れておじやっぽくするか、お茶漬けと一緒にどうかな……と、掃除のあとに作っておいた。「やるじゃん」と隣の圧迫感に褒められて……まあ悪い気はしなかった。
トモ兄はガサツで、温めた揚げ物をそのままお皿に乗せて運んでいこうとするから、キャベツを千切りにして無理やり乗せた。こうするだけで見栄えが二百倍くらいよくなる。
「まあでも、お前と智樹さんがくっついたなら、俺も家でヤれるからいいかな」
「やっとラブホ巡りせずうちでできるのかー」と呟きながら、ドカッと食卓の定位置に座る。トモ兄が存
在するだけで、部屋の温度が五度くらい上がっているような気がする。
俺も憎たらしい赤飯を茶碗によそって、父さんの前、いつもの場所に座った。
「ラブホいろんなとこ行ったもんねー、ねー? 智樹さん」
「赤飯とか食べるの十年ぶりくらいかも」
「やっぱあのSMラブホが一番面白かったなあ。また一緒に行こうね」
「三角木馬のやつな」
父さんは最初スルーを決め込んだから見てて面白かったのに、話に乗っかってしまった。その時のことを思い出すようにふっと笑う。
「俺の知らない話しないでよ」
「あー! 童貞くんは悔しいかあ! ごめんなあ」
「もう童貞じゃない!」
テーブルの下から、トモ兄の脛を思いっきり蹴り上げてやった。
それから三日後。
あの日、もう何も出ないってくらい出したのに、不思議なことに……身体は寝て起きるたびに元気になってリセットされる。タマの中の精子もまた元気に泳ぎだす。エッチした翌々日には、もう父さんの中に入った感触を思い出して抜いていた。
前は自分の頭の中の妄想だったけど、本当の感触を知ってからのほうがエスカレートして、想像で抜いていた日々以上にティッシュを消費した。
誕生日は特別な日だから……いや、この前のはただの誕生日じゃない。ずっと約束していた十八歳の……
特別な日だったから、あんなに豪華な部屋を取ってくれたんだろう。
じ、じゃあ……これからは……二回目からは、家の中でしていいってことなんだろうか……?
トモ兄は「やっと家でやれる」と言っていたけど、俺も、うちの中で……し、寝室で、してもいいんだろうか。
あの日、嬉しくて何回も入れて、気づいたら朝の四時だった。帰ってからすぐ寝てたし、次の日も本調子じゃなさそうだった。まだ身体がしんどいだろうか? もうちょっと待ったほうがいいかもしれない。
……もうちょっとって、どれくらい?
二回目は……もう一回したいときは、なんて切り出せばいいんだろう。世の中の大人はみんなどうしてるんだろう? 「普通」が、「常識」が、「暗黙の了解」がわからない。
イエスノー枕っていうのがあるらしいけど、あれを買えばいいんだろうか。でも俺と父さんは一緒に寝てるわけじゃないし……リビングのソファにでも置いとけばいいのかな。
十八歳になるまでは、ただエッチしたい、父さんの中に入りたいという気持ちでいっぱいだったけど、それが叶ったら、また新たな悩みに直面するとは思ってもみなかった。
悶々と考えていたけど、結局一人で考えてても何もわからないから、父さんに直接聞くことにした。
「あの……父さん」
畳んだ洗濯物を持って自室に入ろうとするところを呼び止めた。
うちは玄関近くから順に、俺の部屋、寝室、父さんとトモ兄の部屋、その奥がリビングになっている。夫婦の部屋は共同だ。
だからうちには、全部の部屋にベッドがあることになる。
寝室は、小さい頃はトモ兄に「カラオケできる部屋」「ここでなら思いっきり歌ってもいいぞ」と教えられていたけど、中学に入ってから薄々勘付いていた通り、「智樹さんに声我慢させたくなかったから、防音にしたのよ」とネタばらしされた。
つまり、ヤリ部屋ってことだ。
「あの、その……っ」
「ん? 俺もう寝るぞ」
「ま、また……エッチしたい……んですけど、その……」
緊張しすぎて、謎に敬語になる。もっとかっこよく言おうと思ってたのに、最後のほうは息しか聞こえて
ないんじゃないかってくらい小さい声になった。
目の前の愛しい人はぽかんとして面食らったあと、すぐ赤くなった。
「あー……ん……」
所在なさげにぽりぽりと頬を掻く。
「明日……するか?」
「い、いいの?」
「……うん」
明日……明日! お許しをもらって、嬉しくて心臓が暴れだす。こんなことなら一人で悩んでないで、もっと早く聞いておけばよかった。
「うちでしてもいいの……?」
「……そりゃ、毎回ホテル行くわけにいかないから……」
家でエッチするなんてシチュエーション、本当の恋人みたいだ。いや、もう本当の恋人なんだけど……。うちでイチャイチャするのがずっと夢だったから、すごく嬉しい。
「あ、あの……今度は俺が……ちゃんと、準備したい」
ピンときてないみたいで、「?」という顔をした。
「その、お尻……慣らし方、教えてほしい」
この間は父さんが自分で慣らしてくれてたけど、だからお風呂から出てくるのが遅かったんだ……って気づいた時にまた猛烈に勃起したけど、ずっとそうさせるわけにはいかない。そうしたらいつまで経ってもやり方がわからない。俺がちゃんと準備して、ドロドロにして、気持ちよくさせてあげたい……!
「俺がしたいから、やらないで」
う……と言い淀んでいて、なかなか「わかった」と言ってくれない。何度も視線が忙しなく動いて、たっぷりの沈黙あとに……やっと、俺の待ち望んだ声が聞こえた。
次の日、父さんがお風呂に入る直前に「寝室で待ってて」と言われた。ほんとにまたエッチできるんだ……という生々しさがぐわっと押し寄せてくる。
「ん」
いつも通りパジャマを着た父さんが入ってきて、ベッドの上、俺の横に座った。……忘れてるのかわざとか知らないけど、それ、俺が初めてひったくってオカズにしたパジャマだよ……。
間違ってもトモ兄が入ってこないように鍵をしなきゃ、と思っていたけど、父さんがちゃんとかけてくれた。
防音のこの部屋は、ドアを閉めると本当に世界で二人きりになったみたいに、しん……と静まり返る。一瞬の沈黙のあと、
「え、と……し、してもいいですか……」
と切り出すと、
「ふはっ……」
父さんが笑って、わざとギャグ調にするみたいに後ろに飛んで大の字になった。「さあどうぞ食べてください」と言わんばかりに。
その豪快な動きにクスッときて、俺の緊張もちょっと飛んでった。父さんの身体を跨いで、顔の横に手をついて見下ろすと……ふっと目を逸らされる。
「お前……ほんとに女の子としたことないの?」
今にも消えちゃいそうな声。
「……ないよ」
こんなに好きだって言ってるのに、ホテルで何回も中に出したのに、わかりきってることを聞かれてムッとする。
「かっこいいのに……」
もったいない……と続くようなニュアンスで言われた。
「父さん以外に興味ないよ。他の人の裸とか……見たいと思わない」
そう言うとふてくされた顔をして、でもちょっと恥ずかしそうに、「こんなおっさんのどこがいいんだか……」とぼやいた。
中学でも高校でも、俺の顔だけしか見てない子たちにたくさん告白された。けど、女の子の甘ったるい匂いや胸のふくらみは、生理的に受け付けることができなかった。父さんの体臭、香水が混じった匂いじゃないと安心できない。それ以外には違和感がある。
「……俺、後ろ向いちゃだめ?」
……なんて言われたのか理解するのに五秒くらいかかった。後ろ向くって、顔が見えない状態でする……ってことだろうか。ショックで脳が理解を拒否した。
この間はそんなこと言わなかったのに……と脳内だけで思ったつもりが、声に出ていた。
「そりゃ、お前が……初めて……、だったから」
初めてだったから、ちゃんと顔が見えるようにさせてくれた……? 俺の思い出に残るように……? 大切にされている、という実感がじわじわ広がっていく。
「やだ……ちゃんと、顔見てしたい」
そう言うと、ぶすっとした顔で観念したみたいに身体から力を抜いた。ふてくされた子供と同じだ。可愛くてたまらなくて、考えるより先にキスしていた。
「ん! ん……」
最初は驚いたように歯でガードされたけど、ゆっくりと開いて迎え入れてくれた。
「っ……ふ、ぁ……」
キスしながら手探りでパジャマを脱がす。かっこつけてやってみたはいいが、ボタンを外すほうに集中するとキスが疎かになる。どっちかしかできない。察してくれたのか、口の中では父さんがリードしてくれた。
「は……」
胸を開くと、綺麗な胸筋と腹筋があらわになる。父さんの乳首……俺とか、着替えのときに一瞬見たことある友達のと比べると、ちょっと大きい気がする。理由は考えるのをやめた。
「あのさ……、エッチしたくなったときは、なんて言ったらいい……?」
「……してもいい? って聞けばいいじゃん」
そう……やっぱり、そうだよな。それしかないよな。冷静に考えると、そんなの幼稚園児でもわかる。けど、駆け引きのやり方がわからない。好きすぎて意識しすぎてしまう。これが恋は盲目ってやつなんだろうか。
「大人って、みんな週に何回くらいエッチするの……?」
きめ細やかな肌の上、手のひらを滑らせながら聞く。父さんは吐息だけで反応しながら、「そんなこと聞くな」みたいな嫌そうな顔をした。
「そ、の……カップル……次第だろ……っ」
カップル、の声がやたらちっちゃかった。
「俺、毎日したいな……」
「あっ……!」
あっという間に下半身にたどりついて、抵抗しようとする脚に抵抗し返して、ズボンに指を引っ掛ける。
「脱がせていい……?」
「う……」
こく……と小さく頷いた。エッチするってわかっててここに直行したはずなのに、律儀にパンツを履いてるのが可愛い。パンツごと下にずり下ろす。父さんは「後ろ向きたい……」とぶつぶつ言っている。
「顔見られるの恥ずかしいの……?」
「脚開くのが嫌だ」
ぶっきらぼうに言うのが可愛くて、わざと太ももを掴んでがばっと左右に広げた。
「うっ! ば……っ」
最高級のオカズを目に焼き付ける。自分の身体はこんなに柔らかいだろうかと考えて……父さんは、トモ兄と定期的にしてるからこんなに開くんだ……と嫉妬に支配される。
「……どうやってほぐしたらいい?」
閉じようとする力がすごくて負けそうになる。身を乗り出して間に身体を入れると、押し倒した時から勃ってた俺のものが、すべすべした太ももに当たってしまって……ぴくっと反応した。
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あらすじ画面もご参照ください。
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