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<3> 初めて編 *以下、エロサンプル
高校生活は、永遠にも感じられた。
十八歳の誕生日まであと三ヶ月、というところで落ち着かなくなり、その日を指折り数えて待った。
俺が十八歳になった瞬間セックスさせてくれるのか? それとも高校を卒業するまでダメなのか?
この世で一番重要なことを父さんに聞いたら、「知るか」と思いっきりそっぽを向かれてしまった。
俺は十月生まれだから……もし「卒業後」だったら、半年近く差があるということになる。そんなの立ち直れないから、心の準備をしておきたいのに……。
「樹生」
誕生日まで一ヶ月に迫った頃、歯磨きをして、さあ寝るかと部屋に戻ろうとしたところで父さんに呼び止められた。
「お前の誕生日、ホテル取った」
……一瞬、何を言われてるのかわからなかった。
「……え?」
「だから、最上階のレストラン予約した。でもドレスコードすっげー厳しいわけじゃないから。
普通にスーツで行けば大丈夫。お前しばらく着てないから、クリーニング出しとくか?」
父さんは何かを誤魔化すかのように早口で喋る。
「……泊まるの?」
「……うん」
「トモ兄も一緒?」
「……いや、俺とお前の二人」
心臓がバクバクして、指先が震えた。それ、それって……。
嬉しすぎて頭が真っ白になって、言葉が出てこない。目を逸らしていた父さんが、意を決したように俺を見る。
「お前さ、俺に、その……」
俯いて言いよどんだので、「言って」と先を促した。
「……突っ込みたいの?」
父さんの口から直接的な言葉が出てくるだけで興奮した。
父さんは三年前、「十八まで俺のことが好きだったら」と条件をつけたが、俺は隙あらばパジャマを盗んでいたし、ガムを噛んでいれば、飴を舐めていれば横から掠め取った。「まだ、俺のこと好きか?」なんて改まった確認は必要ない。
「……うん。父さんの中に入れたい」
「っ……」
愛しい人の耳が、じわじわと赤くなる。今までの人生で一番のムラムラがぐわっと押し寄せた。押し倒したい衝動を必死に我慢する。
……ようやく十八年間恋い焦がれていたものが現実になる気配がして、指先が震えた。
ドラマでしか見たことがないような、夜景の綺麗なホテルだった。久しぶりに見たスーツ姿の父さんは、軽く髪を後ろに撫でつけていて、滅多につけない香水がほんのり香っている。信じられないほどかっこよかった。
「うわ、すごい柔らかいぞこれ。全然脂っこくないわ。美味いなあ」
「……うん」
大皿にちょこんとしか乗っていない高そうな料理が運ばれてくるけど、「このあとエッチするんだ」と思うと……父さんの中に入れるんだと思うと、一つも味がわからなかった。
父さんはいつも通りに見えるけど……俺と同じようにドキドキしてくれてるんだろうか?
「うわ、広っ……!」
「おー、すげえ綺麗だな」
食事を終えて部屋へ行くと、俺の想像より何倍も広い空間が広がっていた。
ホテルといえば六畳で、ドアを開けたらすぐにベッドが飛び込んでくるイメージしかなかったけど……高級マンションのモデルルームみたいな広さで、普通の家みたいにドアで仕切られてこそいないけど、ベッドとリビングが別のフロアになっていた。
「せっかくだからスイートルームにした。これより上のランクもまだあるみたいだけどな」
「えっ、スイート!?」
俺のためにそんなに豪華な部屋を取ってくれたことがすごく嬉しかった。これにトモ兄もついてきてたら台無しだったから、二人っきりで本当によかったと心の底から思った。
「うわ、夜景すごい綺麗! 父さん見て! 観覧車すげー近い」
「おーほんとだ。すげーな」
横に来て窓にもたれかかる横顔を見つめる。夜景より何倍も綺麗だ。父さんもふいに視線をこっちに向けてきて、そのまま目が合う。
「……風呂入ってこい」
蚊の鳴くような声で言って、スーツを脱ぎながら、ハンガーにかけるためか……歩いていってしまった。
バスルームは、テカテカした灰色の石に囲まれていた。大理石というやつだろうか。早くしないと父さんがいなくなってそうで、帰ってしまいそうな気がして、音速で髪と身体だけ洗って出た。
「父さんっ……!」
ロクに身体も拭かずバスローブを羽織って探すと、目当ての人はベッドに腰掛けて外を眺めていた。
「へ? お前、もう出たの!?」
「う、うん……なんか……父さんがいなくなっちゃうんじゃないかって、不安で……」
そう言うと「なんでだよ」と俺の大好きな顔で笑って、「……俺も入ってくる」と言ってバスルームに消えた。
俺もシャワーを浴びて、父さんもシャワーを浴びる。セックスが本当に現実味を帯びてきた。ドキドキして、一分が一時間くらいに感じられた。落ち着かないので、髪を拭きながら部屋を歩き回る。
……十分、二十分……四十分経っても父さんは風呂から出てこなかった。最初はひたすら心臓バクバクしてたけど、だんだん「溺れてるんじゃないか?」「倒れてるんじゃないか?」と心配になってきた。
居ても立っても居られなくなってバスルームの扉の前に立ったのと同時に、ガチャッと扉の開く音がした。
「あ……」
「わっ」
開けたらいきなり俺が立っていたからか、父さんは驚いて叫んだ。バスローブ姿で無防備、髪から水滴が落ちてる姿に……下半身が反応しそうになる。
「遅いから……あの、溺れてるんじゃないかって心配になって……」
父さんは「ん」と言ってスタスタとベッドの方に歩いていってしまった。俺もあとを追いかける。ベッドに腰掛けたので、怒られないかドキドキしながら横に座った。髪を拭く、わしゃわしゃした音だけが聞こえる。
「父さ……あの……、さ、触っても……いい……?」
情けないくらい声が震えた。父さんは髪を拭いた前かがみの姿勢まま、上目遣いで俺を見上げた。手からボタボタ落ちてるんじゃないかってほど手汗が滲む。
「……いいよ」
消え入るような声だった。首筋に触れようと手を伸ばすけど、笑っちゃうほどぷるぷる震える。身体が見たくてバスローブに手をかけようとすると、
「……男の身体だぞ」
お前、ほんとにわかってんの? と念を押された。一瞬、時が止まる。
「……そんなの今更だよ。俺、小学生の時から父さんの裸で抜いてたよ」
俺にとって当たり前だった学生時代のことを話すと、いつものポカンとした顔をした。
「一緒に風呂入ってる時にガン見してさ……目に焼き付け」
「い、いい! もういいから!」
「……裸、見てもいい?」
「う……」
……耳の先が真っ赤なのが可愛い。震える手でバスローブを開いた。
父さんの身体は四十六歳とは思えないくらい引き締まっていて、きめ細やかで美しかった。オレンジの明かりを肌が反射して、まるで美術館にある彫刻のようだ。ズクリと下半身が重くなる。
「あ、あの……父さん……」
俺はさっきバスローブのポケットに潜ませておいた、パッケージにバナナのキャラクターが描いてあるコンドームを取り出した。
「これっ……ど、ドンキで買ったんだ。バナナの匂いするんだって……おっ、面白くない?」
本番で失敗しないために、いろいろ買って試してみたけど、どれがいいかなんてわからなかった。父さんがちょっとでも笑ってくれたら……お互いに緊張がほぐれれば……と思って買ったけど……
「っ……」
父さんはそれを見てカーっと顔を赤くした。口を手で覆ったかと思うと、両手でじわじわ顔を隠していって……赤い耳しか見えなくなった。サッと血の気が引く。
「とっ……父さん、これ……ダメだった?」
「……、……」
「ごめん、俺わかんなくて……」
こういう匂いつきのものは良くないんだろうか。変なこと考えないで、普通のやつを持ってくればよかった。テンパって謝ると、「違う……」と蚊の鳴くような声が聞こえた。
「俺……、な……、…」
やっぱり俺とするのは嫌なのだろうか。親子だから? 俺が経験ないから?
「……中……に……、出されないと……イけな……」
「え……?」
一瞬、何を言われてるかわからなくてフリーズした。俺の妄想の中の父さんが喋っているんだろうか。
「う……」
顔を隠す手が震えている。でも、そしたら……子供ができてしまうんじゃないだろうか。俺と父さんの子。背徳的な響きが頭をよぎってゾクゾクした。
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あらすじ画面もご参照ください。
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