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20.珍しく饒舌

ある程度飲み進めていたが、リューは酔っているのかも分からない。淡々と、時折会話をしながら葡萄酒は気付けば半分以上空けていた。僕はほろ酔いのイイ気分になってきたのでリューにしなだれかかる。 「僕の話なんてつまらないし、リューの話が聞きたい」 「更につまらないと思うが」 「それでもいいから」 僕が催促すると溜め息を吐かれたが、重い口を開いてくれそうな感触があった。黙って待っているとポツリと、こぼし始めた。普段なら無視するはずなのに、これはやはりお酒効果なのかもしれない。 「ギルドに来る前までは教会にいた。その前は売られたから奴隷商人のところにいた。その前が貧乏な貴族の家だが、正直あまり覚えていない」 「……ちょっと待った。さらっと言ってるけど結構重いこと言ってる気がするのは気のせいか?」 「よくある話だろう。借金のカタに売られただけだ。教会でギルド長に拾われて、そのあとお前に会った」 「そこも淡々と話すんだな。まぁ、僕は楽々生きていたって……バレバレか。商人の息子って言った気がするし」 確かに本人曰く『つまらない』話なのかもしれないが、何かしらあるんだろうなと思っていたけど、僕には想像できないところに生きていたんだと思うと、別に何をした訳じゃないけど何だか申し訳ない気持ちになる。そんな僕の気持ちを察したのかリューが、フ、と笑った。 「酒のつまみにもならない話だから、話す気がなかった。だからもう聞くな」 「え、あぁ、突っ込みづらい話ではあるけど。それでも知りたいと言ったのは僕だし。でも、教会にいたのだからいた間は普通に生活を送っていたんじゃないの?お祈りとかしてさ」 「……そこが普通の教会ならば、そうだったかもな」 「は?そこも?まだ裏がある話ってまぁ……このリューが出来上がる過程を考えればまぁ……まぁ、そうなるな」 リューは葡萄酒を一気に流し込むと、追加を手酌でグラスへと注いでいく。 もしかしたら酔うと饒舌になるのかもしれない。僕はギリギリのところまでは止めずにいこうとのんびりその様子を伺う。 「ギルド長はその教会がどんなところかを知っていて俺を引き抜いた。その教会は裏社会では知られている暗殺者(アサシン)を養成する施設だった。神父もただの殺し屋だ。身体が丈夫そうで身寄りのない子どもを買ってきて、暗殺者(アサシン)を育てる。教会はただのカモフラージュだ」 「カモフラージュで何ていう罰当たりなことしてるんだか。人に救いの光を与えるはずの場所が人の命を奪うための人間を養成する場所に、ね。僕が知らないだけでそういう話なんてよくあるのかもしれないが」 「だからお前は関わるな。抜け出せなくなる」 「心配してくれてるのか?優しいな、リューは」 僕がニコと笑いかけると、リューは意味が分からないと、表情で雄弁に伝えてくる。 本人は本当に無自覚なのかもしれないが、懐に入れた者に対しては面倒見が良いのかもしれない。グラスをクルリと回して葡萄酒を波立たせ、香りを嗅いでからグラスに口づける。 「じゃあ、リュー。これからは僕が楽しいことをたくさん教える。世の中にはもっと楽しいことがたくさんあるから。戦闘術はもう粗方知り尽くしているんだろう?今の話を聞いて納得したし」 「そうか。お前の好きにするといい」 リューはグラスに入っていた葡萄酒をまた飲み干してしまうと、グラスを置いてソファーへと寄りかかる。そのまま目を閉じたかと思うとすぐに寝息を立てはじめた。やはりかなり酔っていたらしい。 「お酒は弱いってことが分かっただけでも収穫か。これは外で飲ませると危ないかもしれないな。僕の前だけで酔ってくれよ?リュー」 僕は言い聞かせるように耳元で囁いてからリューの頬にキスを落とし、眠ってしまったリューを起こさぬよう毛布を取ってきてリューに掛ける。このソファーはまあまあ上等なヤツを注文して取り寄せたから寝てもヤっても丈夫なソファーだ。熟睡したとしても問題はないだろう。 僕もゆっくりと葡萄酒を飲み終えると、立ち上がってベッドへと移動する。さすがに眠気が襲ってきたので今晩はゆっくりと眠ることにした。

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