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19.偶には一緒に嗜みを
僕がもう一度風呂から上がると、今度は起きていたリューが何枚も持っているいつもの黒いシャツだけを羽織ってソファーに適当に腰掛けて武器の手入れをしていた。下着も身に着けていないのかと思えば、黒い下着を履いていたので、服を着るには暑かったのかもしれない。
「……風呂上がりにナイフの手入れとか、普通するか?」
「思い出しただけだ。お前は一杯やるのか?」
テーブルの上には武器の手入れに使う道具らしいヤスリや油の入った瓶などが置かれていて、所狭しと使用されていた。空のグラスとギルドから提供された薬瓶もあることから、リューはどうやら薬も飲んだようだ。
「いや、まずはお手入れし直しから。誰かさんが頭からシャワーを浴びせたから、おかげさまでやり直しなんだよな」
「そうか」
悪びれもせずに、僕が隣に座ろうと自分は黙々と武器の手入れをしている。
僕も気にせず髪の毛を整えていると、急に視線を感じた。
「ん?何?」
「いや……なんでもない」
「なんでもないのにジロジロ見られたら、気になる」
「あとは眠るだけなのに、熱心に弄るのだなと思っただけだ」
(なんだろう……どういう風の吹き回し?)
僕が疑問だという顔をしていたことに気づいたのだろう。リューもそれ以上は言及せずにまた武器の手入れへと戻る。今、手入れしているのはナイフだが、マグナムも転がしてあるところを見ると、使った武器を順番に手入れしていくつもりなのだろう。
「薬も飲んだんだから、明日に回せばいいだろう?どうせ暫くは休暇だし」
「武器は丁寧に手入れしてやらないと、長持ちしない。だから、なるべくすぐに手入れをした方がいい」
「へぇ。僕は別にしないけどね。傷んだら取り替えるし」
「それはお前が商人の息子だからだろう。普通そんなに武器を頻繁に変えられたりしない」
珍しく饒舌に語るリューに耳を傾けていると、話は終わりだと言わんばかりにまた黙り込んでしまった。こうしている時間もよくあることだし、静かに過ごす時間も嫌いじゃないのだけれど。もう少し話を聞きたくなってしまう。
僕は僕自身の手入れを済ますと一旦席を立ち、まだ時間がかかりそうなリューの側で葡萄酒を嗜むことにした。グラスは一応2つ持ってきたのが、リューが飲むかは分からない。飲んでいたような気もするが、勧めると断られることが多かったと思う。それでも一応訪ねてみようとまた僕から声をかける。
「リュー。一応グラス持ってきたけど。飲む?」
「ここにもグラスがあるのだが……酒用に持ってきたのか。そうだな……少し、頂く」
「へぇ、珍しい。じゃあ少し注ぐから乾杯しようか」
リューが言っているグラスはグラスでも、水などを飲むような汎用のものだ。
僕が持ってきたのはお酒を入れると映える背の高いグラスのことだ。柄が細くておしゃれなこのグラスは気に入っている。
僕はグラスに葡萄酒を注ぐと、リューの目の前にもグラスを滑らせた。
リューはナイフを一旦テーブルの上に置くと、少しだけ道具を寄せて、酒を置けるようにと場所を開けてくれたので、葡萄酒のボトルも開いたところに置いた。
「それじゃあ、乾杯」
「……乾杯」
グラスの合わさる音が軽く響く。お互いにグラスに口付けて一口飲んで味わう。
芳醇な香りの中にある、独特の苦味と酸味。癖はあるのだが、喉を通る時に感じる深さが気にいっている。本当はもっと年代物を飲みたいものだが、いくら僕でもそうやすやすと手に入れることはできない。これですら、あまり流通していないものだから適当に掠め取ってきたようなものだ。
「リューってお酒飲める人?」
「あまり飲まないから分からない」
「ふーん……じゃあ酔ったら僕が手取り足取り介抱してあげるから安心するといい」
「……1番信用してはいけないやつだな」
それでも付き合ってくれるのは気まぐれなのか。僕は楽しめるから構わないのだが、味わっているのだか、美味しくないのだか、まだ表情からは読めない。
(普段より2割増しくらいで話してくれているから、いいんだけど)
僕は嗜むことに慣れていなさそうなリューを見ながら口元に笑みを浮かべていた。
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