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25.治療室で
ギルド長の無茶振りが終了し皆散り散りになっていったが、リューはギルド長に引き起こされて何かを話していた。
(確かリューはギルド長に拾われた、とか。ギルド長が父親代わりってことなのか?)
リューのことを知らないと思い知らされる気がして、胸の奥が燻る。
僕の気持ちなど知らず快活に笑うギルド長がリューの背中をドン、と叩くと、リューが軽くむせて腹をおさえた。
「おい、リューライト。お前、怪我でもしたか?」
「……別に……ッ――」
ギルド長が追撃のように腹を触り押し込むと、少し身体を折り曲げた。もしかしたらもらった一撃でやられているのかもしれない。僕は2人の間に入り込み、爽やかにギルド長に微笑みかけた。
「ギルド長はお忙しいと思うので、僕がリューを治療室に連れていきます。構わないだろう?リュー」
「そんなに大げさなものでもない。寝れば治る」
「あーあー!分かった分かった!行ってこい!俺は楽しませてもらったからな。それで十分だ。リューライト、たまには顔出せよ。独り立ちしてからちっとも寄り付かないし、俺のことがそんなに嫌いか?」
「……そういう感情を持って接したことがないので分かりません」
「可愛げのない野郎だな……まあ、いいか。アルヴァーノ、頼んだぞ」
シッシッと手を振るギルド長に軽く頭を下げ、リューの肩を無理矢理に抱いて歩き出す。
「絶対無理してるだろう?」
「無理はしていない。想定内だ。問題ない」
「想定内ね。そういうことにしておきますか。手当てなら得意だ、任せてくれ」
「そうか」
短い会話を交わしてギルド内を歩く。抵抗しないところを見ると、リューは本当に怪我を負っているとみて良さそうだ。ギルドの中でも奥の方にある治療室の扉を左手で開ける。
「そうそう都合よく治療してくれる人はいないし、残念ながら僕の治療で我慢してもらおうか」
「……勝手にしろ」
リューの勝手にしろは了承の意味なので、そのまま室内に入って備え付けの白いベッドの上へと座らせる。
「ほら、リュー。服を脱いで、装備を外さないと。顔も細かく切れてるし、色男が台無しだな?服もまた新しいのを支給してもらわないとダメそうか」
僕が1人で話して準備をしている間に、リューが順に装備を外して脇の台へと置いていく。無言で装備を外していくリューを見ていると、どんどんと無防備になっていく気がして自然と目が奪われる。
「ほら、シャツも脱がないと治療できないだろう?」
「……何を考えている?」
「どういう意味?何、僕にいやらしいことをされるのを期待してるとか?」
リューは分かりやすく目線で呆れたと訴えてきた。無表情の中にも僕に反応を示してくれていることが嬉しいと思ってしまう。些細な反応の違いを残さず拾おうと必死になっている自分に笑ってしまった。
リューは僕のことなどお構いなしに、素直にシャツを脱いで上半身を僕の眼の前へと晒す。相変わらず均等の取れた体つきを見ていると今すぐに押し倒して愛撫したくなるが、一旦我慢する。気持ちを抑えてよくよく見れば腹の辺りが赤くなっている。
「もしかして、ヒビとか……」
「そこまではいっていない。打撲程度だ。だから、必要ないと言った」
それでも気になったので腹に触れてみる。そこは普段よりも熱を持っていて、痣になりそうな予感があった。
「まず切り傷を消毒するから。そのまま動くなよ」
リューは短く息を吐き出して動かない。僕は持ってきた消毒液を綿に染み込ませて無数の切り傷を丁寧に消毒していく。リューは顔色も変えずになされるがままだ。
「本当に顔色1つも変えないのか。切り傷はこれでいいとして、問題は打撲の方か」
綿をゴミ箱へと捨て、今度は冷やした布を腹に当てようとするがリューは微妙な顔をする。
「その布でどうするつもりだ?」
「打撲を冷やすんだよ。でも座ったままだと面倒だから……リュー、ついでに少し寝て言ったほうがいい。疲労が回復したころに起こせばいいだろう?」
何かを言いかけたが、疲れていたのかリューはベッドに上がって大人しく寝転んだ。今日のリューはやはり素直だ。そのまま目を瞑って身体を楽にする。
(怪我をしてなかったら完全にいただくところなのに……)
僕は1人で納得して笑いリューの腹に布を置く。少しだけ身体を揺らしたが僕もそれ以上余計なことを話さずに見ていると、そのうちに静かな寝息が聞こえてきた。
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