27 / 73
27.変調
誰にも邪魔されずゆっくりと休んだリューは、僕より早めに目を覚ましたらしい。僕が目を開けた時には装備もすっかりと整っていた。
「……リュー?おはよう」
「お前の方が熟睡していたみたいだな」
「新しい装備を貰いに行って、後は家で休もうか」
「休みすぎだと言いたいところだが、武器の手入れもしたい」
リューは自身の銃とナイフを大切にしている。気づけばまめに手入れしているので、ある意味趣味のようなものなのかもしれない。先程の戦いで傷ついているかもしれないし、装備の交換も必要だろう。
「ギルドの支給を受け取りに行って、それから戻ろう」
リューは頷き、ベッドから降りる。僕も欠伸をしてゆっくりと起き上がり身支度を整えた。そのまま治療室を後にして、共に支給を貰いに行く。
+++
職員に話しかけると、すんなりと話が進んだ。僕の家が装備を優先的に提供しているという話も知っているとは思うが、それだけではなさそうだ。
「新しい装備ですね。ギルド長から優先して渡すようにと言われておりますのでお好きなものをお選びください」
「ありがとう。僕は特注だから大丈夫。リュー……リューライトの分をお願いします」
ギルド長も大盤振る舞いと言うか、リューには特別に目をかけているみたいだ。父親代わりということを除いてもリュー自体に実力があるからな。仕事をこなしてくれるのならば、ギルド的にも損はないのだろう。
「リュー、ここは遠慮なく頂こう。ギルド長が良いと言っているのなら問題ないだろう?」
「……」
リューはチラと僕に視線を寄越してから、職員が持ってきた装備一覧に目を向ける。暫く思案して、順に装備を指さしていく。それを職員が書き留めると一旦裏へと引っ込み、指定された装備を手に持って戻るとリューの前へと並べる。
リューは無言で受け取りのサインをすると、装備を用意された袋に詰めて僕に視線で行くぞと訴える。
「はいはい。戻りますか」
ここはおとなしく付いていく。歩く間も僕が話しかければ少しは返事してくれるけれど、会話が盛り上がることはない。元々寡黙だが家路を急いでいるというか、実は早く帰りたい理由があるのかもしれない。
「リュー?大丈夫か?」
「……別に」
「早く帰りたいだけなら構わない。だがもし何か理由があるのなら言って欲しい」
「……家までは、大丈夫だ」
何か意味深な言い方をしたリューが気になったが、早足で帰宅することにする。
+++
家に戻ってくるなり装備が入った袋を置いて、リューは素早くコップを1つ取って水を飲む。
「喉が乾いていただけなら……」
僕がリューに近づくと、リューがコップを置いて僕に視線を合わせた。その視線には少し違和感があった。
まるで、僕を求めるかのような視線――
だが、その視線はすぐにいつもの無機質なものへと戻る。
「もしかして、リュー……」
「……少し休む」
そのままソファーの方へと向かおうとしたリューの腕を思わず掴んだ。
その腕は想像していたよりも温かい。
「リュー、もしかして……」
「睡眠が足りないだけだ」
「ねぇ、辛いのを我慢しなくても……」
「辛くはない。疲れただけだ」
リューは僕の腕を振り払う。そのまま背を向けて行こうとするので、僕はリューの背中に飛びつくように抱きついた。両腕を回すと身体は予想通り体温が高い。
アフロディジアの後遺症が出たのだろう。無茶をしたせいなのかもしれない。
「やっぱり、症状が出ている。我慢してどうする?」
「……」
「僕がいるし、スッキリさせた方が早い」
「……それは俺の為か?それとも、お前の解消の為か?」
リューが声だけで問う。僕は抱きついたままクスクスと笑った。
「両方だ。僕は欲張りだからな」
フッ、と。リューが吐息で笑ったような気がした。
すぐさま呟くように、好きにしろ、という声が耳に届く。
(素直じゃないというか、何というか。言い方まで相変わらずだ)
僕も自然と頬が緩む。これくらいで喜ぶ僕も僕だが、まぁ仕方ない。
「じゃあ、好きにする。リュー、このまま進んで。ベッドの上でしようか?」
「その前に薬を飲んでおく」
「効いたらしないつもりか?」
「さっき薬を飲もうと水を汲んだはずだが、飲むのを忘れた。今飲んだとしても、効くまでには時間がかかるだろう」
リューの言っていることは時々よく分からない。これは冗談のつもりなのか、抜けているだけなのか。
(それとも、僕と……)
考えているうちにリューはまた僕の拘束を解いて今度は薬と一緒に水を飲んだ。抑制剤が効けば身体の熱もそのうちに治まるだろう。だが、その前に――
「じゃあ、少し発散させますか。薬が効けば眠くなるかもしれないし」
リューは何も言わなかったが、その足は素直にベッドルームへと向いていた。
ともだちにシェアしよう!