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28.伝わらないことに焦れて

リューは気怠さもあるのか、装備を外して楽な格好になるとベッドに腰掛ける。 そのままベッドへと身体を倒してぼんやりし始めた。 視線だけで僕を追うが、特に何をする気もないらしい。 「物凄くやる気のない感じ?」 「特に動きたいと思わない。自室では危険を感じないし、気怠い」 「色気の欠片もないな。単純に具合が悪いのか?」 「疲れもあるのだと思う。先程眠った分で帰宅する体力分は確保できたが、予想よりも調子が上がらない」 リューはそう言うと目を閉じてしまう。 (僕の勘違いで眠いだけ?抑制剤を飲んだということは、そういう気持ちもなくはないはずだが。分かりづらいな) 僕はリューの額に手を当ててみた。額は熱いといえば熱いが前に熱が出ていたような熱さは感じない。単純に具合が悪い訳ではなさそうだ。 僕が手を離すとリューもうっすらと目を開けて、自分で額に手を当てている。 「……熱はない。あれくらいで疲れるとは情けないな」 「あのギルド長とやりあえる人物はメルセネールではリューくらいだろう?少なくとも僕には無理だ。戦いたいとも思わない」 「あの人は遊んでいただけで本気など出してはいない。いつもそうだ。だから、俺は……」 リューが目線を動かして何かを言いかける。やはりギルド長とはリューにとっては特別なのだろうか? 「リュー……ギルド長とどういう関係?もしかして、深い繋がりが……」 「お前が何を言いたいのかよく分からない。恩人で育ててもらっただけだが。深い繋がりとは?」 リューが訝しげに眉を寄せたので、その顔を僕の方へと向かせ唇をあわせてそっと離す。 「こういうこともしたか?という意味」 「ますます意味が分からないのだが」 「だから……」 僕は言いながら抵抗しないリューの服を脱がせていく。シャツをはだけさせたところでその身体を優しく撫でる。 「こういうことを許していたのか?そういう意味」 僕の意図がやっと伝わったのか、リューは長く息を吐いた。 「求められたこともない。そういう対象と思われたことがないが、お前は何を気にしている?いつもおかしいが、今日は特におかしい」 「酷い言われようだな。特におかしいって……まぁ、そうかもしれないな。僕も自分で自分が良く分からない」 「いつも知った風で自慢げに語る癖に珍しいな。恋愛ごとは得意なのだろう?」 リューが珍しく揶揄うように言うものだから、何だか心を見透かされているみたいで嫌になってしまった。リューの両足を持ってベッドの上へと転がすと、僕も隣へと寝転がる。 「別に恋愛ごとが得意な訳じゃない。快楽に関して素直なだけだ。そこに感情は含まない。その時、その時が、楽しければそれでいい」 「何の問題が?」 「こういう時だけ突っ込んで聞いてくるのか……普段は喋らない癖に」 「話すのが好きではない。俺は必要最低限でいいと思っている」 (僕は何が言いたいのだろう……リューに言っても通じないのは分かっているのに) 言い争っても仕方がないと分かっているのに、つい言葉を荒らげてしまいそうになった。 僕はこんな人間だっただろうか? 「いや……いい。なんでもない。リューが疲れているのなら寝た方がいいのかもしれない。寝よう」 「お前はそれでいいのか?」 「今しても楽しくなさそうだから。無理矢理するのも嫌いじゃないけれど、気分じゃない。それに、リューは怪我もしているから」 リューはまた黙ってしまった。ただ僕のことをじっと見ている。観察でもしているのだろうか? 「……何?」 「俺は人の気持ちというものを察することはできない。戦いにおいては別だが。言いたいことがあるのなら……」 「あるけれど、リューに理解してもらえないし。説明するほどのことでもない。というか、こういうのを説明するなんて……僕がお喋りだとしても格好悪くて言いたくない」 「あれほど行為をすることが好きなお前が、するのをやめるほどに何か気になることがある、ということは分かる。それが何なのかは分からないが」 珍しくリューが食いついてくる。どういう風の吹き回しなのだろうか? こういうことこそ、面倒で無関心なのではなかっただろうか? 「何だか僕が1人で馬鹿らしいから、気にしなくていい。今、無理にしなくても平気そうだし。僕が心配しすぎただけかもしれない」 「……」 「それともリューが我慢できなかった?」 「いや……」 「じゃあ、大丈夫そうだ。変なことを言って悪かった。おやすみ」 僕が目を閉じてしまうと、リューもそれ以上何も言わなかった。

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