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52.眠る前に思うこと

「……俺の身体に何かついているか?」 「いや、綺麗だなと思って」 「別に普通だと思うが。今日のお前もどうかしているな」 「まぁ、そうなのかもしれないな。妙に気分が良いし、やっぱり生の喜びを目一杯感じているのかも」  僕の言葉にリューがフ、と笑う。  そんなにおかしなことを言っているつもりはないのに。 「そう言われれば、俺もそうかもしれない。先程までは生きるか死ぬかの瀬戸際だったはずなのに、今は妙に力が抜けて不思議な気持ちだ」 「この場所にずっといたい訳ではないけれど、誰も来ず、何も気にせず、ただただ求め合って自然と共に生きるっていうのも案外悪く無いのかもしれないな」 「一番そういうのに縁遠いヤツが良く言う」 「まぁ、便利なモノに頼って生きている僕が言うのもおかしいか」  色々な(しがらみ)も、使命も、何もかも放り出して。  ただ、二人で静かに生きてみる。  そんな未来もなくはない。  リューがいるだけで大抵のことは何とかなってしまう気もするし、僕はそれを補助すればいい。  まぁ……今の生活自体が嫌いな訳でもないから。  それはまた別の機会、だろうけれど。 「リューの分のシャツ。一応どうぞ? 別に裸で毛布に包まっても構わないが」 「今は体力回復に努める。ただでさえお前に付き合ったから身体が怠い」 「好きにしていいっていいって言ったのはリューだろう?」 「本当にあそこまでされるとは思っていなかった。が、言ってしまったことを後悔はしていない。別に構わないと思ったからそう言ったまでだ」 (言い方が分かりづらいけれど、要は僕と繋がってもいいって思ってくれた訳だ。懐に入れたものには甘いなぁ)  笑いながらリューに手渡したシャツのボタンを代わりに留めていく。  そうして今度こそ、お互いにベッドに寝転んで毛布を被る。 「おやすみ、リュー」 「……おやすみ」  無視せずに挨拶を返すリューの言葉を聞いて、安心して目を閉じた。 +++  どれくらい眠ったかは分からないが、少しずつ意識が覚醒してくる。  薄く開いた瞳で見慣れない天井を見上げる。    そうだ、小屋の中に避難していたんだった。  首だけ隣に向けると、まだ眠っているのか熟睡しているらしいリューの寝顔が見えた。  生と死を前にして、僕とリューの関係性はまた変化したと思う。  特にリューは感情をあらわにしてくれた。 (きっかけが死にかけたせいっていうのがね。こういうのを吊り橋効果って言うのかな)  クス、と笑いが溢れた。  これも生きているからこそだし、リューには感謝してもしきれない。  それに、僕は本当にリューのことを好きになってしまったから。  口では誤魔化してはいるけれど、ずっと一緒にいたい。  どんな形でもいいから、側にいられたらいいのにと願ってしまう。 「片思いしている女の子みたいだな……」  柄にもない自分の気持ちに笑ってしまうが、もう隠せない。  この気持ちだけは嘘をつくことはやめて、これからもぶつかっていくつもりだ。

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