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53.行動開始

   どうやらまた眠ってしまったらしい。  漸く浮上してきた意識と共に、ゆっくりと目を開けた。  激しく小屋を叩いていた吹雪の音は止んだみたいだ。  近くには窓もないので、今は昼なのか夜なのかも分からない。   (いつまでも小屋にいる訳にはいかないからな。そろそろ動き出さないと)  思案しながら隣のベッドを見ると、リューもちょうど目を覚ましたらしくゆっくりと目を開けた。  普段は僕より先に起きていることが多いのだけれど、それだけ身体に負担がかかっていたのかもしれない。  今は二人で無事に帰還することを第一に考えて動くべきだろう。 「リュー、身体は動きそうか?」 「……あぁ。動かずとも無理やり動かせば問題ない」 「それは問題があるっていうことなんだけどね。ここじゃ非常食くらいしかないだろうけど、何か食べたら出発しようか」 「そうだな。吹雪は止んだようだし、戻るなら今のうちだろう」  無理やりっていうのがリューらしい。  万全ではないけど大丈夫という意味なんだろう。  戻ることについては、リューも同じ考えだったみたいで安心する。  お互い身体を起こして、行動開始だ。  まずは元々着ていた服が渇いていることを確認する。  装備は多少痛んでいるものもあるけれど、帰るまでは問題なさそうだ。  腹ごしらえは、水があったところに非常食の干し肉があった。  固い肉を齧りながら、着替えていく。 「リューは戻る方角も完璧?」 「問題ない。後は魔石があれば帰りも魔導車が使えるはずだが」  魔石は色々使い道があるけれど、この小屋に燃料用の魔石があるとは思えない。  火を付けるためのものとは違い、魔力(マナ)を豊富に含んでなければならないからだ。  帰りは歩いて近くの街か村に行って何かしら乗り物を手に入れるか、魔石をこの近くで運よく手に入れるくらいだ。  たまに魔物が隠し持っていたり強い魔物が体内で形成していることもあるが、基本は洞窟で発掘することが多い。 「イエティが隠し持ってたりすればいいけど。雪崩で流されてるか」 「さすがに魔石の発掘場所までは把握していない。どちらにしても魔導車の場所まで戻ろう」 「だね。誰か迎えに来ている可能性は?」 「あるだろうな。日程通りに帰還者がいなければ、任務失敗かどうかの判断のためにギルドの人間が派遣されてもおかしくはない」  魔導車の帰りの燃費分を用意していないということは、車を回収にくる人間もいるはず。  なぜこんな効率の悪いことをするのかと言えば、今回のように危険な依頼の場合は誰も帰還できない場合があるからだ。  実際、雪崩に巻き込まれた奴らがどうなったのかは分からない。  全員が全員突っ込んだという訳ではないだろうから、後方にいた何人かは無事帰還できている可能性もある。    僕たちも本調子ではないけれど、今は帰ることが先決だ。  勝手に亡き者にされても困る。 「非常食と水も持ったし、行こうか」 「そうだな」  装備も整えたことをお互い確認してから、リューが小屋の扉をゆっくりと開けていく。  外の天気は落ち着き、空に薄っすらと日の光が見えた。  周囲の安全をお互いに確認し合い、ゆっくりと歩を進めていく。

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