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56.温もり<アリィ→リューSide>
リューは本当に疲労していたせいか、三日三晩高熱にうなされていた。
精神と体力の限界だったのかもしれない。
それなのに僕のワガママまで聞いて小屋でもつい無理をさせてしまったから、休める状況だと感じた瞬間に倒れてしまったのだろう。
「死ぬな……息をしてくれ……」
「リュー、大丈夫。僕は生きてる。隣にいるから安心して」
リューは時々悪夢も見るせいか、僕が隣にいるかどうかを確認していた。
大丈夫だと言い聞かせながら手を握っていると、安心してまた浅い眠りにつく。
そんな日々を繰り返していたけれど、この期間に色々と考えさせられた。
リューは僕が思っていた以上に繊細で、元々とても優しい性格なのだろう。
今となってはリューが優しいというのは理解できるけれど、育ってきた環境のせいで本来の性格が隠れてしまったに違いない。
もしもギルド長に拾われていなければ……リューはどうなっていたのだろう?
何も考えず、何も感じない。本当の暗殺者 になっていたかもしれない。
「リュー、もっとワガママを言っていいよ。僕が叶えてあげるから。できる限り、だけどね」
クスっと笑ってから額にキスを落とす。
リューの熱も下がったから、今は規則正しい寝息をたてている。
うなされることもなくなったみたいだし、僕も安心してひと眠りできそうだ。
「面倒だから、このまま寝てしまおうか。おやすみ、リュー」
僕はリューの隣で丸椅子に座ったまま、ベッドに両肘をついて身体をあずけたまま目を閉じた。
+++
ふと、目が覚めた。
室内の暗さから考えて、おそらく真夜中なのだろう。
ここ数日、記憶が曖昧だ。
体調を崩してしまったことは覚えていて、アルヴァーノが世話をすると宣言していたのは間違いない。
ただ、本格的に熱が上がってからは良く覚えていない。
自分の額に手を当ててみると、漸く熱が下がったことが分かる。
「あの程度で……情けない」
自嘲気味に笑み視線をずらすと、ベッドに伏せたまま眠っているアルヴァーノの姿が見えた。
終わらない悪夢の中で、何となくアルヴァーノの声が聞こえていた気がしていたのだが……どうやら付きっきりで側にいてくれたらしい。
「頼むとは言ったが、意外と義理堅い奴だな」
普段ならば、俺の隣で寝ると言って返事をする前に図々しく横へ寝ていたりするのだが。
俺の体調を慮 ったらしい。
最初に出会った時は自身の思うが儘に勝手をする奴だとばかり思っていたのだが、最近は俺に合わせようとしていた気がする。
俺に構ってくるのが鬱陶しいだけだと思っていたはずなのに、いつの間にか俺の中でコイツの存在が大きくなったのは認めざるを得ない。
(俺は……)
軽く目を閉じて思案する。
アルヴァーノはバディだ。だから、失いたくなかったし助けた。
だが、本当にそれだけが理由だったのか?
バディとしても悪くはないのは確かだが、それだけじゃない気がする。
前にギルド長が言っていた言葉をふと思い出した。
『リューライト、アルヴァーノはいつかお前に相応しいバディになるだろう。だが、もしかしたら……それだけの存在じゃなくなるかもしれないぞ?』
バディだけではない存在。
それが、アルヴァーノの言う『好き』ということなのだろうか。
薄く目を開き、眠るアルヴァーノを見遣る。
「確かに、お前のことは嫌いじゃない。不思議と側にいてくれるだけで安心できる」
今も右手がアルヴァーノの手に繋がれたままだ。
この温もりは、俺にとって安堵と安らぎをもたらしてくれている。
(完全に気持ちの理解はできないが、体温を分け与えられるのは悪くない)
だが、いちいち倒れていてはどうにもならない。
もっと強くならなくては。
だからこそ、今は休養に努めるしかない。
体力回復に専念するため、また瞳を閉じる。
そのうちゆっくりと眠りへ誘われていった。
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