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58.甘えてもいい

   リューに触れても嫌がられなくなったのはいつからだろう?  最初は諦めて自由にさせてくれていた感じだったけれど、こうして何度も撫でていても受け入れてくれている。 「リュー、無理せずもっと甘えていいんだ。頼ってくれるのも甘えだし、好きな人の体温を求めることだって甘えだ。僕もその方が嬉しいし」 「そういえばギルド長にも拾われた頃によく言われていた気がする。甘えるというのは心を許すことと似ているのか?」 「まあ、そんな感じ。子どもが抱っこして欲しいと親にねだるのも甘えだけど、大変なことも抱え込まずに分担しようっていうのも甘えるの一種だ」 「今まで他人に何かを任せようと思ったことがなかったからな。ギルドの依頼の場合は役割分担があるから必然的に任せる場合もあるが、他は特に意識したことがない」  リューは特殊な環境下で育っちゃったんだから、仕方ないことなのだろう。  でも、僕と違ってリューは心根が素直だからリューが素を見せればみんな受け入れると思う。  僕は別の意味での特殊な環境のせいで性格が捻くれちゃってるから、甘える行為も純粋なものじゃない。  リューの見本になってあげられないのが残念だ。 「リューはまた一歩僕に近づいてきてくれたから、僕はそれだけでも嬉しいよ。ただ、もっと僕に要求しても構わないってこと」 「要求か。頼むと言っても、今は鈍った身体を動かす訓練に付き合って欲しいくらいだな」 「普段なら遠慮するところだけれど……甘えていいって言ったし、明日以降だったら構わないよ。ただし、無理は絶対にしないこと」  コツンと額を突き合わせてお願いすると、分かったという返事が聞こえてきた。  僕は笑って、リューのことを思い切り撫でまわす。 「アルヴァーノ、何のつもりだ」 「我慢できるリューを褒めてるだけだ。えらいえらい」 「相変わらず意味が分からない。俺の頭なぞ撫でて何が楽しいのか知らないが、これはいつまで続く?」 「リューに拒否されるまで?」  ニッコリと笑って言いきると、リューのいつものため息が聞こえてきた。  良かった。いつもの調子が出てきたみたいだな。 「でも、僕に触られても嫌ではないんだろう?」 「もう、慣れた。が、俺もいつまでもくっついていたい訳じゃない」 「そう? それは残念だな。さて、この後はどう過ごそうか?」  リューは少し思案していたみたいだけれど、急に僕と視線を合わせて口を開いた。 「少し腹ごしらえをしたら、もうひと眠りする」 「珍しいな。別に構わないけど……」  リューが食べられそうなものが何かあればいいんだけど……保存用の干し肉くらいか?  買い物もせずに帰ってきたから、家にはロクな物がない。 「適当に干し肉でいい。明日買い出しに行けばいいだろう。食べたら、お前もベッドで休め」 「お気遣いありがとう。でも、僕はソファーで……」  笑いながら返すと、リューがまた無言で僕を見つめてくる。  今度は何を言うつもりなんだろうか。  言葉を待っていると、リューがベッドをポンポンと叩いて見せた。 「ココで寝ろと言っている」 「ココって……リューの隣でってこと?」  僕が聞き返すと、リューは頷いて肯定する。  まさかの添い寝希望? 甘えろと言ったけれど、大胆なお誘いに僕も嬉しくなる。

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