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59.初めて芽生えた感情
僕はリューの言った通り、一旦干し肉と水を持って来てからリューの側へ戻る。
リューが食べ終わるまではと、椅子に座って様子を見守っていた。
「俺が食べているところを凝視していてもつまらないと思うが」
「僕はどんなリューも見ていて飽きない。だから、気にせず食べて」
僕が笑顔で言い切ると、リューは納得できないという表情で黙々と干し肉を齧 る。
ある程度リューが咀嚼 したところで、グラスに注いだ水を渡した。
リューは一気に水を飲み干すと、もう一杯頼むと素直に頼んできた。
「ふふ。こうやって世話を焼くっていうのも楽しいものだ。リューはいつも無意識にしてくれるかもしれないけれど」
「甲斐甲斐しくしてやった覚えはないが、戦闘中ならば気を回している可能性はある」
「それとは少し違う気もするが……まあ、大まかに言えば含んでいるか。難しく考える必要はない話だ」
僕の言うことを聞き流さずに、耳を傾けてくれるだけでも嬉しいだなんて。
僕は本当にリューのことが好きになってしまったんだろう。改めて自覚するとむず痒 いものだ。
苦笑しながら、リューからグラスを受け取る。
リューはそのあとも黙々と食べ続け、干し肉を食べ終えたところで俺をじっと見つめてきた。
隣で寝ろと暗に言っているのだろう。
「そんなに熱烈に歓迎されると照れるな」
「大げさな言い方だ。だが、不快に思っていたら隣に呼び寄せたりはしない」
端的に言っているけれど、リューの懐へ入れるのはあとギルド長くらいじゃないかな?
そう考えると、この位置にいられる凄さを改めて感じてしまう。
「気遣いなのだとしても嬉しいよ。じゃあ、もう少し眠ろうか」
「ああ」
リューの隣へお邪魔して寝転がると、リューも僕の方へ身体を向けてきた。
眠くなるまで話すつもりなのかもしれない。
僕が見守っていると、リューの方から口を開いた。
「アルヴァーノ、俺は前にギルド長から言われたことがある。お前は俺に相応しいバディになる。そして、それだけの存在じゃなくなるかもしれないと」
「ああ……前にリューだけに耳打ちをしていた時か。そんなことを言ってたのかあの人」
あの人は僕の気持ちまでお見通しな気がするし、ただの脳筋じゃないってことだ。
ギルド長は食えない性格だけれど、リューのことを心配している気持ちは本物なのだろう。
父親代わりっていうのは、今も昔も変わらないんだろうな。
「言われた時は意味も分からなかった。アルヴァーノが戦闘中も俺に動きを合わせられるのは理解したが、その後の言っている意味は理解できなかった」
「それはそうだろうね。少しずつ認めてはくれていたし、身体も繋がってはいたけれど……今とは少し状況が違う」
リューは無言で頷いた。
僕に向けられている黒い瞳が何か言いたげに揺れ戸惑っているのが分かり、僕は自然とリューに手を伸ばして優しく髪を梳 く。
「今は何となくだが、分かる気がする。俺にとって初めての感情をもたらしているのはアリィだ」
リューに言われると重みがある。感情を自然と押し殺してきたはずなのに、それが僕の影響でもたらされただなんて。
僕は今まで自分の欲求が満たされればそれで構わなかった。
けれど、今はそれだけじゃ足りないと思っている。
(僕はもっとリューに好きになってもらいたい。リューの身も心も自分のものにしたいと思っている)
酷く身勝手だけれど、愛と呼ばれるものは身勝手な気持ちが含まれていてもおかしくないだろう。
どんな形であれ、相手を一途に思うのは愛に違いないのだから。
「リュー……そんな風に言われると、僕は欲張りだからもっと求めてしまう。それでも構わないか?」
「求める内容にもよるが、俺は自分に芽生えた感情を知りたいと思っているのは確かだ。だから、結果が繋がると言うのならば構わない」
「そう。じゃあ、キスをして抱きしめても構わないよね? その先は我慢するから」
僕がお願いすると、リューは急だなと呟いてから表情を柔らかくしてくれた。
リューの体調が万全だったら、僕の想いを熱く伝えるためにも身体を重ねたというのに……残念だ。
さすがの僕でも、今は遠慮するしかない。
宣言通りリューへ近づいて唇にやんわりとキスを落としてから、リューに両腕を伸ばして抱きしめた。
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