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63.商店区域

   どうでもいい家族のことは片隅に追いやり、リューの運転で都市まで出ることになった。  魔導車と言っても、これは乗り物自体に(またが)って乗るものだから馬の脚の代わりに車輪がついたようなものだ。  二人で乗る場合は前後に乗り合って、片方がハンドルを握った状態で運転しもう一人は運転者へしがみつく形になる。  運転はいつもリューがしてくれるので、僕はリューのお腹辺りに両腕を回してしがみつく。  リューのコートを尻で踏みつけないように、僕がうまくお腹の辺りで畳んでまとめてしまう。  リューはいつも脱げばいいって言うけれど、リューのコート姿が好きなので僕が着たままでいいと無理やり納得させている。 「天気がいいからいいけれど、この乗り物は雨が降ると最悪だからな。屋根もないし」 「風を切る感触は気に入っているが、頭からびしょ濡れになると後が面倒なのは確かだ」  リューは、最近何気ない会話も返してくれるようになった。  前は一言だけ同意するだけで僕が永遠一人で喋りかけているだけだったけれど、返事があるだけでこんなに嬉しく思うだなんて。  今までリューの無口に慣れてしまっていたのだろうな。  都市に着くまでそれなりに時間もかかるから、会話している方が気は紛れる気がする。  +++  リューが飛ばしてくれたおかげでいつもより早く都市へ着くことができた。  ギルディアの商店が立ち並ぶ区域に辿り着くと、魔導車を指定の場所へ駐めて鍵をかける。  鍵も魔道具の一種なので、他の鍵で開けることは不可能だ。  力づくで持っていこうとすると、魔導車から電流が流れるようになっている。  要は雷属性の魔法が込められている仕組みなので、ほぼ問題ないはずだ。  この区域は比較的裕福な者が多いので盗みを働く者はいないし、僕たちが乗ってきたものより高級な魔導車もあるからそこまで目立たない。 「リューは何が食べたいとかあるのか?」 「いや、特にない。だが、少し精のつく食べ物を摂取した方がいいかもしれない」 「ふぅん。精ねぇ」  僕が意味深に呟くと、リューの表情が呆れたといった表情に変化する。  勿論、僕は意味を知った上で呟いてみただけなのだけれどこうもあからさまに反応してくれるのが嬉しい。 「ワザと言っているのだろうが、お前にとってはどちらの意味でも摂取した方がいいだろうな」 「忠告どうも。じゃあ、今日は少し真面目に料理でもしようか」  苦笑しながら肉類を売っている商店を覗き、何点か買いそろえる。  他にも保存用の缶詰もしっかりと見て、いくつか野菜も買っていく。  リューの両手が食材でいっぱいになったところで、一旦休憩でも取ろうかと軽食が食べられる店を探し始めた。 「天気がいいせいか、軽食系の店は人が多いな」 「俺はその辺りに腰かけて食べても構わないが、アルヴァーノが疲れたのなら店で休むのもいいだろう」  今日は陽も照っていて、少々暑い。  リューはどう見ても全身黒の暑そうな服装なのに、汗一つかいていない。  もしかしたら、体温調節まで習得しているとか? リューならできそうな気がするから不思議だ。  僕は薄青のシャツに青のベスト、青の足首が見えるパンツの軽装だから戦闘をするような恰好はしてこなかった。  一応おしゃれに見えるベストはある程度刃も防げるウチの商品で、腰のベルトにはいつもの鞭だけは差しておいたので多少のことなら身を守れるだろう。 「どうしようか。僕の知っている店でもいいけれど……」  言いかけたところで、昔良く通っていた飲食店が見えてきた。  ただ、この飲食店は人気店で知り合いに出会う確率もある。  以前関係を持った誰かと会うのが少しだけ億劫(おっくう)だ。 「まあ、空いていたらここでもいいか」 「そうだな」  諦めて店を覗いてみようと思って近づくと、入り口の扉が開いたところで一人の男性が店から出てきた。 「あ……」 「誰かと思えば。お前か。相変わらずチャラチャラしてるな」  リューが僕を振り返って、誰だと表情で訴えてくる。  正直、今一番会いたくない人物だった。  僕は取り繕った笑顔で、話しかけてきた相手に声をかける。

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