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64.エミィーディオ・ロイル

   暫く顔も見てなかったから安心してたけど、隠れ家で家族のことを思い出したせいで会いたくない人を呼び寄せてしまったのかもしれない。  内心凄く面倒だけれど、さっさとやり過ごしたいので僕が愚か者のフリでもすれば満足して去っていくだろう。 「エミィ兄さん、久しぶり」 「フン。そっちの黒づくめはお前の遊び相手か?」  この人はエミィーディオ。僕の兄だ。  他にも兄はいるけれど、エミィ兄さんは苦手だし正直言えば嫌いだ。  兄さんの髪の色は灰色で、顔つきはキツイ顔の父さん似。僕は母さん似なので、僕と見た目は全く似ていない。  体格は僕以上に細く、武器や防具を扱う商人の息子だけれど魔物と戦った経験はないはずだ。  性格は誰に対しても基本横柄で、自分の家柄が立派だと信じてるから他の人間は自分より下としか思っていない実に分かりやすい性格だ。  父さんに対しては従順で誤魔化すのが上手いから、失敗は昔から全部僕のせいにしてきた。  父さんは僕の言い分など聞きもせずエミィ兄さんのことを可愛がり、兄さんに対しては熱心に教育をしていた。  他の兄さんたちは家を継ぎたくなかったみたいで、みんな家を出て行ってしまった。  この都市から出て別の国へ行った兄さんもいれば、この都市の別のギルドへ所属している兄さんもいる。    子どものころは父さんに怒られてばかりで寂しい気持ちもあったけれど、今となっては見放された方が良かったのだと思う。  父さんも自分の好きな者しか可愛がらず、目先の利益のためなら何でもする人だ。  その血を一番濃く継いでいるのは、エミィ兄さんなのかもしれない。    (まあ、今まで裕福な家を利用して好き勝手生きてきた僕が言う権利もないか)  自然と自嘲気味な笑みになる。  僕は何を言われてもいいけれど、リューは僕の事情とは全く関係ない。  なのに、リューに向かって失礼なことを言い放つ兄に対してもリューは無反応だ。 (リューにとっても兄さんはどうでもいい人だろうけれど、リューまで(おとし)められるのは納得できない)    僕が兄さんへ言い返そうとすると、察したリューに手で押し止められた。  リューが何を思っているか分からないけれど、兄さんは器も小さくてとても面倒な性格だ。  ここで何か兄さんにとって気に入らないことがあれば、確実に父さんに言いつけるだろう。  だから、ここは僕を悪者にして適当に受け流した方がいいのだけれど……リューは僕に発言させようとしない。 「俺はリューライト・ディケンズ。アルヴァーノのバディだ。メルセネールの者と言えば分かるか?」 「リューライト? 聞いたことない名だ。上流階級ではなさそうだな。確かメルセネールは傭兵ギルドでウチが武器を流してやっている取引先だな」  リューが小さく頷くと、兄さんはリューを格下とでも確信したのか鼻を鳴らして気の毒そうな表情をして見せた。   「バディだか何だか知らないが、お前も出来損ないの面倒を見させられてるとは気の毒だな。コイツは色欲狂いだからせいぜい気を付けろよ」  兄さん……僕を(さげす)むように見るのも相変わらずだな。  色欲狂いは間違っていないから、否定する気もないし相手をする気もない。  僕がへらりと笑うのを横目で見たのか、リューが溜め息を漏らす。 「こういう(たぐい)の人間は見飽きるほど見てきたが、こうも分かりやすいとはな」 「リュー、いいから……」  僕が小声で囁いてリューを止めようとしたけれど、兄さんはすぐに不機嫌さを顕わにしてリューを睨みつけた。   「お前、下級階級の癖に……この僕に楯突くのか? 口の利き方がなってない」  兄さんが振り返って合図をすると、兄さんの後ろからヌッと大男が姿を現した。

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