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65.メルセネールへ

   僕たちの前に現れた大男は、兄さんを守るガードなのだろう。  父さんが兄さんのために金で雇っているのだろうけれど、メルセネールのギルド長と比べればただデカイだけで威圧感も大したことはない。 「おい、僕に対して失礼な態度の男を少し懲らしめてやれ」 「エミィーディオ様、このような街中で騒ぎを起こすのはよろしくないかと。であれば、(しか)るべき場所で宣伝も兼ねるのはいかがでしょうか?」 (もしかして……リューを宣伝の道具にするつもりか? リューの強さを知らないにしても、わざわざ面倒ごとに巻き込まれる必要はないよな)  僕が心の中で結論を出すのと同時に、リューがフッと笑ったのが分かった。  嫌な予感がする。僕はリューを止めようと小声で囁く。 「リュー、僕たちは買い出しに来ただけだし。用は済んだから帰ろう」 「いや、折角のお誘いだ。向こうはどうやらその気の様だし、どうせならメルセネールへ連れていけばいい。それなら、向こうの言い分も通る」 「聞き流せばいい。リューが勝つのは当たり前だけれど……本調子でもないのに挑発に乗ってやる必要なんてない」 「心配ない。ギルド長もすぐに許可を出すはずだ。それにお前の家はメルセネールに装備を卸しているのだから、丁度いいだろう」  リューが何を考えているのか全く分からないけれど、何故だかやる気みたいだ。  僕だけが頭を抱える展開になってきて、今すぐここから逃げ出したい気持ちになる。 「どうした? コイツは父さんが連れてきたガードだが、獰猛(どうもう)な魔物も一撃で仕留める男だ。お前らのような非力な奴らじゃ、宣伝にならないかもしれないな」 「兄さん……」  僕は真実を教えるのも面倒になってしまって、黙ってしまった。  兄さんは僕が困っているのだと勘違いしているのか、ニヤニヤしている。 「話がまとまったようだな。では、メルセネールへ行こう」  リューが誘いをかけると、兄さんは偉そうに頷いて見せた。  大男も自信に満ちた表情だ。  (これはギルド長も違う意味で喜ぶかもしれないな。面倒なことになってきた……)  僕は流れに身を任せることにして、リューと共に兄さんたちをメルセネールまで案内する。  商業区域からは少し離れているけれど、歩いてもそこまで遠くはない。  その間、僕らは特に会話を交わすこともなく微妙な空気のまま歩き続けた。  +++    休暇中にわざわざ顔を出す必要はなかったはずなのにと心の中で毒づき、ため息交じりでギルドの入り口を潜る。  メルセネールは都市の中でもかなり巨大なギルドだ。  訓練施設と訓練生用の個室、医療施設に武器配給施設などギルド内で普通に生活できるようになっている。  ギルドの内勤のものは宿泊も可能だし、お金さえ払えば下宿場所として使用できる。  実際ギルド長はメルセネールの中に住居を構えているくらいだ。  別の場所に家もあるらしいが、メルセネールの中は傭兵だらけで頑丈な建物なために都市の中でも最も安全な場所と言っても過言ではない。 「この時間ならギルド長は訓練場にいるだろう。丁度場所も借りられるだろうし、手合わせするには十分だろう」 「メルセネールのギルド長と言えば、父さんも気にしていた人物じゃないか。フフ……いい宣伝になりそうだ」  父さんが兄さんをギルド長へ会わせてない意味を理解していないのだろうか?  兄さんは金勘定だけは得意だけれど、性格的に交渉事が全く向いていない。  父さんも内務的なことは兄さんにやらせているけれど、外務的なことは未だ自分が表立って動いている。  兄さんは、それすら気づかず今も何故か得意げになっているのだろう。

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