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66.改めて、思う
ロイル商会は輸出を主にやっていたのだけれど……ギルディアが都市として機能してきた頃、都市をまとめるメルセネールのギルド長を始め他のギルドも優れた装備を他国へ流すのに難色を示したらしい。
元々行っていた商売を咎 められた父さんは気に食わなかったはずだ。
これは僕が家で立ち聞きした内容からの推測で本当に言ったかどうかは分からないけれど、父さんは僕をメルセネールに入れなければ装備は今まで通り他国へ輸出するとでも言ったのだろう。
黙り続けて歩きながら思案していると、耳障りな声が思考を中断してきた。
「おい、ギルド長はどこだ?」
「訓練場へ案内する。黙って付いてこい」
リューの言葉に不機嫌そうな顔をする兄さんが分かりやすいな。
大男が必死に宥 めている光景も滑稽 だ。
訓練場までは多少歩くから、兄さんは暫く放置でいいだろう。
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父さんは僕がメルセネールへ行く理由を社会勉強だと説明してきたけれど、それは外向けの話であって実際は僕を厄介払いしたかっただけだ。
僕を受け入れるのならば、装備は優先的にメルセネールへ流すと契約をさせて最低限の利益を確保する。
やり口が汚くていかにも商人らしい。
最新鋭の武器防具は約束通り他国へ流していないけれど、どの国でも流通している装備は普通に輸出しているから二つの利益を合わせて黒字になるところまで父さんは織り込み済みだろうな。
メルセネールのギルド長としても、大量の装備品が流されて他国が強国になるよりはマシという判断なのかもしれない。
思考の波は、静かな声に語り掛けられてまた現実へ引き戻される。
隣を歩いていたリューが表情を少し和らげていた。
「どうやら正解だったみたいだな」
「そうだね。さすがリュー」
文句を言い続ける兄さんを完全無視し、リューは兄さんたちを訓練場まで連れてきた。
そして、リューの予想通り訓練場にはギルドの新人を鍛えながら豪快に笑っているギルド長の燃えるような赤い髪が見える。
「おう、リューライトとアルヴァーノか。休暇を与えてやったってのに、訓練したくなったか?」
「俺はそれでも構いませんが、今日は客人を連れてきたので訓練場をお借りしようと思いまして」
リューは兄さんと大男へ視線を流す。
ギルド長も相手を見定めるように目を細めて相手を威嚇する。
兄さんはまともに受け止めてひぃっと情けない声をあげたが、大男は何とか踏みとどまったようだ。
「ほう? 客人。どちらさんだ?」
「ギルド長なのに僕のことを知らないというのか? 僕の家の装備がなければ何もできない蛮族どもが……」
エミィ兄さん、地雷を踏みまくるのが好きなんだろうな。
この程度のことでキレるギルド長ではないけれど、ギルドに所属している者たちの中にはギルド長を崇拝している変わり者もいるから油断はできない。
ギルド長もニヤリと笑うのみで兄さんの言葉は無視して話の続きをし始めた。
「装備? あぁ、ロイル商会の。で、なんだ。買い出しの途中に」
「はい。先ほど言いましたように訓練場の使用許可をもらいに来ました」
「リューライト、もう少し詳しく説明しろ」
リューが言われた通りに事情を簡単に説明すると、ギルド長は楽しそうに眼を細めて大男と兄さんをじっくりと観察し始めた。
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