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67.闘気

   ギルド長はリューの話を聞くと、訓練場を使っていた新人たちを下がらせて僕たちのために場所を開けてくれた。  リューの予想通り、やたらと楽しそうな顔をしているから僕たちの事情もある程度は察したのかもしれない。 「好きにやれ。ああ、それとアルヴァーノの兄貴とやら。アンタも見てるだけじゃなくて戦ったらどうだ? 宣伝ってならアルヴァーノを打ちのめしてやるといい」 「な、何を言い出している? 勿論、僕が勝つに決まっているが……家のガードが武器の使い方を見せると言っているんだ。それで十分じゃないか」  ギルド長も人が悪い。兄さんが戦えないことを分かっていて言っているな。  リューと大男の勝負も見えているっていうのに、僕まで巻き込もうとするとは。  今までのらりくらりと過ごしてきたツケが回ってきたのかもしれない。    初めて来た時は傭兵ギルドなんて面倒なところへ追いやられたと思っていたし、快楽を追い求めてその場だけでも満足感を得られればどうでも良かった。  僕は元々メルセネールでも厄介者の弱い奴で商人の息子だからいるだけだと思われていたし、その方がいいと思っていたくらいだ。  だから、死なない程度の実力があればよかったしギルド内で強者だと思われる必要はなかった。  しかしリューと同室になってからは、ギルド長に厄介ごとを押し付けられている回数が増えてきた。  それなのに、僕はリューと共に過ごすことの楽しさを知ってしまったしもう離れたくないと思っている。  (もしかしたら、これも全てギルド長の思惑通りだったのかもしれないな)  ギルド長はリューだけじゃなく、僕のことも気にかけてくれていたのだろうか。  だからこそ、リューとバディになったと考えれば辻褄(つじつま)が合う気もする。  僕の想いを知ってか知らぬか、ギルド長はやたらと楽しそうに僕に声をかけてくる。   「リューライトは聞かなくても答えは分かるが。アルヴァーノ、お前はどうする?」 「ギルド長、僕の答えも知った上で聞いていますよね? 僕も構いませんよ。兄さんの目的は宣伝。僕もロイド商会の装備を使用していますから、ギルド長への宣伝になると思います」  僕が笑顔で言い切ると、兄さんは焦りを隠さず僕を威嚇するように大声で怒鳴り始める。   「アルヴァーノまで、一体どういうつもりだ! 僕に万が一のことがあれば、父さんが黙っていないのが分からないのか!」 「そうです。エミィーディオさまをお守りするのが私のお役目。いくらギルド長と言えど、勝手なことは……」  ガードが口を挟んできた瞬間、ギルド長は笑顔のままで闘気を放った。  肌にビリビリと刺さるような闘気は、リューですら表情が苦く変わるものだ。  僕だって、背中に一筋の汗が流れてくる。  吠えていた兄さんはガードにしがみつくのが精いっぱいだし、ガードも片膝をついて圧倒されているのが分かる。 「このギルドを仕切っているのは俺だ。装備の宣伝までは許してやるが、それ以上のことを交渉したければ自慢の親父殿を連れてくるんだな。分かったならすぐに準備しろ」  ギルド長は笑顔のまま低音で言い切ると、闘気を収めて僕とリューの肩をポンと叩いてきた。  僕とリューは確実に心の中で同じことを思っただろう。  ギルド長を敵に回してはいけない、と。  リューはいつもの装備を持って来ていたけれど、僕は鞭くらいしか持ってきていない。  兄さんは何の武器を使うつもりだろうかと見ていると、ガードが持っていた武器を兄さんに手渡していた。  (あれは……小型化された麻酔銃だな。非力でも使えるのがウリだから、女や子どもでも使えると父さんが以前自慢げに言っていたな)  銃と鞭の相性が特別良くはない。  けれど、武器の相性が多少優勢であったとしても兄さんの実力は大したことはない。  リューの使う銃であれば勝ち目はないけれど、この鞭ならばなんとかなりそうだ。 「アルヴァーノ、準備はいいか?」 「ああ。リューはいつもの武器も持って来ているから問題ないな。僕も軽装ではあるけれど、大丈夫だ」  二人で頷き合うと、兄さんとガードも何とか準備が済んだらしい。  ギルド長は僕たちの準備が整ったのを確認すると、自分は審判役になると言って戦闘訓練の開始を告げた。

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