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68.訓練開始

   戦闘をする場合、訓練だろうと基本的にはリューが前衛で僕が後衛なのは変わらない。  ガードは何の武器を使うつもりか知らないが、体格だけはリューに勝っているし格闘系なのだろう。   「リューは銃を使うつもりか? ギルド長は宣伝ならば実弾でも構わないが致命傷は避けろとか意味不明なことを言っていたな」 「その方が精度を証明できるだろうな。宣伝とやらに付き合ってもいいが、俺は違うことをするつもりだ」 「違うこと? リューまで難しいことを言う。僕はまあ……兄さんへの憂さ晴らしでもしようか」  悪戯に笑んで見せると、リューも少しだけ口元を和らげてからすぐに戦闘状態へと切り替わる。  まずはリューがガードへ向けて威嚇射撃をすると、ガードが手で弾き返した。 「あれは……手甲か。指の辺りがトゲトゲしているから武器にもなるものだ。やはり接近戦が得意そうだ」 「予想通りだな。アリィ、お前の兄はお前が倒せ」 「了解。ガードの妨害は任せた」  リューがガードを引き付けながら、僕は兄さんへ鞭を振るう。  兄さんは必死になってガードの陰に隠れながら、僕へ銃を向けて発砲してくる。  軽い音が連続で鳴り、先に針の付いた弾が何発か飛ぶのが見えた。 「どこへ向けているのやら。兄さん、軽い銃だからしっかり手で支えないとブレる」 「うるさい! 大人しく当たって倒れろ!」  軌道は何となく予想していたので、うねる鞭が弾を打ち払ってくれた。  この鞭は柔軟性と強度に優れていて、扱い方は少々難しいけれど慣れてしまえば攻めと守りを両立できる。  麻酔弾が鞭に刺さったところで問題もないから、軌道を通さないように広範囲でうまくうねらせれば何とかなる。  例え擦り抜けたとしても、軌道から避けるように動けばいい。 「鞭は慣れれば便利だ。父さんにもよろしく伝えておいてください、兄さん」 「クソ! おい、僕をしっかり援護しろ!」  兄さんの攻撃を待ってあげているのだけれど、ガードは僕を狙うことができない。  守りに精一杯で、リューの動きについていけないのが丸分かりだ。 「すばしっこいヤツめ! さっきから適当な方向へ銃弾を飛ばしてばかりで何のつもりだ」 「それを伝える必要がどこにある?」 「余裕な態度でいられるのも今のうちだぞ! エミィーディオ様、先にリューライトとやらを始末してきますので少しご辛抱を」 「何? お前はあの黒いヤツより出来損ないをさっさと始末してしまえ! 別に一対一である必要もない。鞭さえ取り上げてしまえばアイツは丸腰だ」  ガードがリューではなく僕の方へ身体を向けてきた。  兄さんに言われて渋々だろうが、リューがそれを許すとでも? 「仕方ありません。傷物にしなければ旦那様もお許しになるはず」  ガードは息を吸い込むと、僕の方へと突進してくる。  その間もリューは何発も弾丸を放つが、ガードはことごとく弾丸を跳ね返していく。  ヤツとの距離が縮まってくると、リューが僕の隣まで戻ってきた。 「リュー、まさか……」 「俺が合図を出したらヤツの装備へ向かって鞭を放て。お前なら俺の言う場所へ当てられるはず」 「無茶を言ってくれる。だが、リューが僕のためにしてくれていることだ。やりきってみせる」  その間もぶれぶれの弾を撃ち出してくる兄さんを横目に、僕は鞭を再度構え直した。  僕の鞭は基本皮製だけれど、外側が薄い金属で強化されているので壊れにくくしなりやすい。  力加減で特定の場所へ狙いが付けやすい特殊素材だ。  僕との距離が鞭の射程範囲に入った瞬間、リューが銃を下げて一点を指さす。 「今だ、アリィ」 「全く、その目は良すぎだろう? だけれど、ここまで来れば僕にも見えた」  リューの意図を理解した僕は鞭をギュッと握り直し、リューが示した位置へ鞭を振るった。

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