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72.過去の独白
食べきれない分は明日へ回し、さっさと食器も洗って片づけてしまってからグラスに葡萄酒を注いでいく。
グラスに差した野菜だけを残し、リューとソファーで隣合って座って乾杯する。
「ふぅ。美味しいものを食べたし、僕も気分がスッキリした気がする。改めて、ありがとうリュー」
「礼を言われるようなことはしていない。アルヴァーノが行動した結果だ」
リューの表情は柔らかい。最近無表情なことの方が少ない気がする。
僕もリューの変化を見てきたからこそ、一歩踏み出す気になれたのかもしれない。
「予想はしているだろうけど、僕は商人の家で生まれたからお金に不自由はしてこなかった。でも、父親から冷遇されていて家に居づらくて」
僕が長く話していても、リューは静かに聞いてくれている。
あまり面白い内容でもないからさっさと終わらせたい。
でも、リューにも知ってもらいたいという気持ちもある。
「で、知っているかもしれないけれど父さんがギルド長と交渉して、僕をメルセネールへ引き取ってくれれば装備を優先的に数多く流すって約束したらしい」
「あの兄がいるのなら、父親とやらも何となく想像はつく。俺が元々いた家も大して変わらない。血の繋がりがあってもそんなものだ」
「リューが言うと説得力があるな。だから僕は、その約束でメルセネールでお世話になっていたって訳だ。傭兵を目指していた訳でもないし、僕は居場所を見つけられずにいた」
リューの方へ顔を向けると、リューも僕の方を見ていた。
その双眸が何も語らなくても、リューの視線は僕の心を癒してくれる。
「快楽は僕の心を埋めてくれたし、自分さえよければそれで良かった。そうすることが自分に一番合っていると思っていたからな。だけれど、リューに出会ってから変化が起きた」
「それは……お互い様でもあるが」
「そうだな。リューは喜怒哀楽を、僕は一人と向き合う大切さを。欠けている部分は違うけれど、何が惹かれ合う結果になるかなんて、誰も分からないよな」
笑いながら一口葡萄酒を流し込む。
リューも少しだけ笑んで、ちびりと酒に口を付けた。
「リュー、僕は……リューの全てを僕の物にしたいと思っているしリューの全てが愛おしいと思っている。これは執着だけれど……リューはどう?」
僕が正直に伝えると、リューもそうだなと言って少し思案し始める。
葡萄酒を何口か嗜んでいると、リューが僕を見て口を開く。
「アリィが俺へ向ける感情とは違うのだとは思う。だが、今日お前が馬鹿にされているのを見て無性に腹が立った。お前は俺のバディとしてうまくやっているのに、軽々しく扱われたことが納得できなかった」
「リューは僕に同情してくれたってこと?」
「同情と言うのは憐れむということだろう? そうではない、別の感情なのだろうな。俺にはまだうまく説明ができない」
リューが言うところの感情は、僕を好いてくれているから腹を立ててくれたということだろうか?
僕ほど激しい想いはなくても、リューなりに僕を好きでいてくれているということなのだろう。
「リューがそこまで言ってくれるのは嬉しい。最初から優しかったけれど、僕のことを思いやってくれているのが分かる」
「どうだかな。ただ、俺のバディでいる以上は俺の動きについてきてもらわなくては困る」
「それは最もだ。ただ、リューは常人離れしているから、今回みたいに補助してもらわないと難しいだろうな」
苦笑しながら酒を煽ると、リューはグラスをテーブルへ置いて僕へ顔を近づけてきた。
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