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73.僕の素顔はリューだけが知っている

   リューの真っ直ぐな瞳に射貫かれると、僕も動けなくなる。  意思を持った灰の瞳は、僕に何かを伝えようとしているのが分かる。 「アリィ、お前はどうしたい?」 「どうしたいって言われても……だから、リューの全てが欲しい」 「全てとは、身も心も全てという意味か」 「そう。そして、欲を言えば僕のことも求めて欲しいし全てをリューに受け止めて欲しい」  言っていることが気持ち悪いのも含めてもう全てぶちまけてしまおうとリューへ伝えると、リューはフッと息を吐き出したかと思うと肩を揺らしながら笑い始めた。 (今、そこまで面白いことを言っただろうか? どちらかと言うと普通の人はひいていくはずなんだが)  僕の表情も妙だったのだろう。リューは暫く声もあげずに笑ってから、改めて僕へと向き直る。 「そこまで真っ直ぐに求められると反応に困る。愛というのは厄介なのだな」 「そうだ。僕も正直困っている。でも、リューが僕から離れていったら死んでしまうかもしれない」 「執着に依存か。お前は本当に困ったヤツだな、アリィ」  リューは微笑みながら僕の頬に手を当てると、唇を近づけてきた。  このままキスをされるかと思ったが、触れるか触れないかの位置でピタリと止まる。 「俺がそこまで魅力的だとは知らなかった。お前にとって価値があると言うならば、俺はお前のバディで居続けても構わない」 「そう? じゃあ、僕に全部捧げてくれるのかな」 「それは……どうだろうな。はいと言ったら身体ごと全て食われてしまいそうだ」 「大丈夫、僕は食うのも食われるのも好きだから問題ない。リューからもらう代わりに、僕の全てをリューにあげるからさ」  話しながら、自然と唇が触れる。  軽く(ついば)みながら、お互いが思っていることを告げていく。 「アリィをもらってもな。戦闘では役に立つが、色事では面倒そうだ」 「何それ、僕が下手くそみたいな言い方をされているのは心外だ」 「慣れている分、しつこくて困る」 「酷いな。僕はリューのことを可愛がりたいだけなのに」  いつの間にかリューとキスをしながら、話し続けている。  お互いの腹の内をぶちまけながらキスを続けるのも悪くない。 「で、リューは僕に捕らわれてくれるのか?」 「それはお前が近づいてきた時に拒めなかった時点で捕らわれているのだろうな。それで、俺が理解していない感情までお前のものにするつもりか?」 「勿論。リューが泣いて僕の全てを求めてくれるまで、一つ一つ教えるから」 「色事ではお前に敵わないからな。お手並み拝見といこうか」  リューが挑戦的な目線で僕を煽ってきたのをきっかけに、キスをしながらリューをソファーへと押し倒す。  羽織っていたシャツのボタンを開けながら、僕は柔らかいキスをし続ける。 「僕の隠していた気持ちと今溢れている気持ち。全て知っているのはリューだけだ。リューになら、汚い部分や弱い部分を晒しても構わない」 「そうか。俺が受け止め切れるかどうかは分からないが、俺のバディはお前だけだ。それは確信できる」 「リューにとってのバディは、任務の時に組む相手だけじゃないように聞こえてくるから不思議だ。だったら、恋人と明言されなくても構わない」 「アリィ……お前は俺に恋人ごっこをさせたかったのか?」  リューが呆れたように眉を(ひそ)めるけれど、関係ない。  僕はリューの目尻に唇を落として、ニコリと笑んだ。 「ごっこではなく、恋人になりたいに決まっているだろう? リューがバディに恋人も含めてくれれば問題ない」 「俺は問題があるのだが。お前と恋人になりたい訳じゃ……」 「身も心もって言うなら、そういうことだろう? だって、僕はリューの全てが欲しい」 「一度言ったからといって、何度も言えばいいというものではないのだが」  都合が悪くなると、リューの口を塞いでキスしてしまう。  リューは拒みもせずに、呆れた顔で僕を受け入れてくれる。 「リューのお人好しなところにつけ込むのも、僕だけの特権だから。他の人のは断るように」 「心配しなくとも、俺に話しかけてくるのはギルド長とお前くらいだ。アリィ」  僕の隠れた素顔も欲望にまみれた心も、全てリューだけが知っている。  リューの素顔は少しずつ見えてきたのだから、これからゆっくり知っていけばいいことだ。   「リュー、好きだよ。愛してる」 「ああ」  そっけない返事も、少しだけ変わる表情も。リューの全ては僕だけが知っていたい。  ギルド長も知らない素顔を、これから知っていくのも楽しみに違いない。    僕がバディでいる限り、リューのバディは僕だけだ。  そして、僕の素顔はリューだけに全て知っておいて欲しいと願う。

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