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第3話 僕は初めて生産した!
さて、小麦畑の前まで馬車で行くと、ズラッと農民達が並んで、膝をついた。
以前は当然だと思っていたが、今は気まずさを感じる。
「それで、ユーリ様、どのくらい必要なんですか?」
「ええと、小麦粉を5個作るのに、小麦が1ついるんだ」
「五個っていうのは、袋5つですか? 小麦1つというのは、何が1つ? 畑1つですか?」
「え」
言われて僕は困った。これまでそんなことは考えたこともなかった。
アイテム名が表示されたり、植木鉢に小麦がひとふさ生えているのが表示されるだけのゲームだったからだ。ん? 植木鉢にひとつだったのだから、小麦1つというのは、生えているの1つで良いのではないのか? 作ってみれば、いくつできるかもわかるだろう。
「――とりあえず、1房ください」
「悪いなおじちゃん、1つ頼むよ!」
「あいよ! あ、失礼しました殿下。かしこまりました」
「今更行儀よくしても遅いし年考えろよ」
「黙りなラスカ」
ラスカは、農民達と親しそうだった。
こうして、僕は無事に小麦を手に入れた。
「よし、作ってみる!」
「ユーリ様、ふぁいと!」
僕は頷いてツルハシマークを意識した。
すると目の前に生産ウィンドウが出現したのだが、それは周囲には見えていないようだった。レシピを選択して、小麦を補給した僕の指の動作を、周囲が不思議そうに見ている。変な踊りでも踊っているように見えるかも知れない……。
「行きます!」
僕は生産ボタンを押した。そして数秒待つと――白い煙が、僕の右前方の空き地に舞い上がった。見れば、500グラム入りの小麦粉の袋がそこに5個出現していた。せ、成功した!!
「……? 見たことのないパッケージですが、どこの商品ですか? ユーリ様、手品が得意だったとは」
「え」
「いやぁ小麦が小麦粉になるなんて」
「「「「「あはははは」」」」」
「……せ、生産したんだけど……」
「包装までパーフェクトとは、さすがぁ!」
ラスカが笑った。農民達も笑っている。どうして笑われているのか、ちょっと僕は涙ぐんだ。しかし、まぁ良い。せいぜい手品だと思っておけ! これだってプラス思考で考えれば、デザインセンスゼロでもいつか格好いい剣を生産できるということなんだからな――! と、内心で考えながら、僕は改めて小麦粉を見た。
数は、生産レベルが上がると、増える。だから、現在のレベルで5個とわかっただけで満足だ。それよりも肝心の経験値は――と、思ったら、もうすぐレベル1になるというところまで経験値が溜まっていた。
「ラスカ! もう一回やる、お願いだ!」
「もう一回だけですよ! 今日は、謁見の日なんですからね!」
「っ、う、うん……」
「頭痛が治ってなによりです、謁見にも参加できますし」
頷きながら、僕はまた小麦を受け取った。
そして生産すると、リーンゴーンリーンゴーンと鐘の音がして、調理のレベルが1になり、さらに小麦粉が3個増えた。先程と違い少し失敗したようで、3個しか完成しなかった。生産は、失敗すると個数が減ったり、材料をロストしたりするのだ。
このペースならば、小麦粉だけで今日中にレベル4は余裕だ。
だが、僕の手品(失礼だと思う)で仕事を邪魔してはダメだという顔でラスカがこちらを見ているので、帰宅してゆで卵にチェンジしたほうが良いだろうと考えた。
さらにウィンドウでは、作成可能物のレシピしか閲覧できないから、僕の記憶にある、今後出現するはずのレシピも書き出しておかなければならないだろう。その作業もあるから、一度帰ったほうが良い。
レベルも上がったし、初生産にも成功したのだから、良いだろう!
そう頷きながら、ふと「謁見」という言葉を思い出した。
謁見とは、父である国王陛下に、月に一回ご挨拶をすることだとこれまで思ってきた。
大体会っているだろう。
この際、正妃から側妃すべて、第一王子から子息子女すべてが集まって、食事をする。全員が集まるのが月に一回なのである。勿論欠席も可能だろうが、僕は欠席した記憶が無い。それに――ゲームで、兄である第一王子は何度も出てきたし、見ておきたい……。
そんな思いがよぎった。まだ僕は、本当にここがゲームの世界なのか疑っている。
「殿下、そろそろ帰りましょう。準備もありますからね!」
「わかった。皆さんも、ありがとうございました!」
農民達は、笑顔で僕らを見送ってくれた。
僕は、ラスカに抱き上げられて馬車へと戻り、それから城へと戻った。
小麦粉も8つ持って帰ってきた。
ゲームをしていた時は、倉庫が満杯で素材が入らないのが常に悩みで、居酒屋のバイト代で度々課金倉庫を購入したものである。そしてあそこには、消費期限などなかった。
僕が持ち帰ってきた小麦粉の袋には、【消費期限:∞】と書いてある。
これは、消費期限なしということなのだろうか?
これもまた僕は試さなければならないだろう。あるいは、誰か詳しい人に聞くか、メルクリウスの加護について調べることも必要かも知れない……。とりいそぎ、自分の部屋の、巨大な物置に入れておくことにした。魔術用の杖などを入れる学習用物置として、三歳児の部屋には不似合いな、巨大な倉庫が部屋についていたのである。
……神童への期待度も見えてきてしまうが、それは無視するしかない。
僕(第二王子)の、母親である正妃様が、教育熱心なのである。
なお兄の第一王子フェリクスは、五歳年上で現在八歳であるはずだ。
第一王子は、第三王妃の息子だったはずである。この第三王妃、既に亡くなっている。
おそらく――(というかゲームシナリオだと)正妃様が暗殺した。
親子揃って怖い悪役設定がついているのである……。
この母の確認にも僕は行かなければならない。
深呼吸して、僕は謁見用の服に着替える準備をした。今回の着替えは侍従に手伝ってもらうことになっていた。
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