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第7話 僕は魔王について聞いた!
その後、試行錯誤(?)を重ねながら、僕は冬とともに、生産調理&錬金術の序盤を乗り切った。そうして、春が来た。
現在は、調理が30レベルで、錬金術が25レベルだ。
窓の外には、春の気配があふれている。
芽吹いた緑と溶けた雪を見て、僕は、ある決意をしていた。
――栽培に挑戦しよう!
そろそろ、調理と錬金術の素材を自分で作りたいと思った結果である。
「今度は何を始めるんですか?」
「栽培するんだ!」
「栽培? 植木鉢でメロン育てるって斬新だと俺は思うんですが」
「え」
「畑じゃダメなんですか?」
「畑があるならそれがいい!」
「問い合わせしておきます」
「ありがとうラスカ!」
「まったくだ」
そんなやり取りをしながらも、僕は植木鉢をベランダに並べた。苦笑しながらラスカが手伝ってくれる。土が入った袋は、重すぎて僕には持ち上げることすら不可能だった。こういう時、やはり大人(ラスカ)がいると、非常に安心である。
さて、その日の午後は、魔術の授業があった。
本日は座学である。
紫の大賢者であるおじいちゃん先生と二人で、巨大な本を開いた。
「今日は、魔王のお話をしましょう」
「魔王?」
僕は、とても興味がある対象だったので、勢いよく顔を上げた。
「ユーリ様は、魔王について、どのようにご理解されていますかな?」
「何一つ知りません!」
「げ、元気の良いお返事は良いのですが、もう少し自主学習しても良いのですぞ! 三歳とはいえ、ユーリ様ならば、やれます!」
「先生、教えてください! 魔王とは、なんですか!?」
「簡単に言えば、この世界を滅ぼす存在ですな」
思わず僕は俯いた。世界を滅ぼす存在なんて、抽象的で哲学的すぎて、何一つ簡単な回答とは思えない。
「例えば、昨年の秋のアルラス水晶鉱山事件は記憶に新しい」
「アルラス水晶鉱山事件?」
「そうです。魔王の右腕である、魔将軍ギルバートが、水晶鉱山のあったウルハスの街を一つ滅ぼしてしまった……実に恐ろしいことです。今もウルハスの街は、復興できていない……」
「ほ、滅ぼした!? どうやって!?」
「わかりません」
「みんな死んじゃったってこと!?」
「犠牲者はゼロです。目撃者もゼロなのです……」
「は?」
「ただ、水晶が無くなってしまい……」
「……? 発掘したとか?」
「あのように大量の水晶を発掘できるわけがありません。綺麗さっぱりなくなっていたのです! 収入源を絶たれたウルハスの街からは、人が消えました……これも全て魔王による禍だ!」
なんかよくわからないなぁと僕は思った。曖昧に笑っておいた。
そんな日々を過ごしている内に、夏はすぐに来た。
畑に関しては、今年は無理だと言われた。
今日は、錬金術の素材集めで、ララスエア火山に来ている。
採掘エリアで、僕は金色の王冠を眺めていた。
今度このディスティニー・クラウンについても先生に聞いてみよう。
採掘しながらそう思っていた時だった。
後ろで声が聞こえた。
「ラスカ様、大変です」
「ギル?」
「西の砦が冒険者による襲撃を受けています」
「――そうか。避難指示を」
気づくと僕はそちらを見ていた。ラスカと見知らぬ青年が話をしていた。
ラスカ――『様』……?
近衛騎士団の部下だろうか。『襲撃』と聞こえた。不穏である。
僕が見ているうちに、直ぐにギルと呼ばれた青年の姿が消えた。
そして、ラスカがこちらに振り返り、ハッとしたように息を呑んだ。
「――聞いていたのか?」
「うん。事件か? 騎士団も大変だね……」
「ええ、まぁ」
頷くと、ラスカが歩み寄ってきた。
それから、しゃがんで採掘していた僕の横で屈んだ。
ポンと手を僕の頭に乗せる。なでるように叩かれた。
「採掘は順調ですか?」
「うん。今日いっぱいやれば、錬金術が47レベルになると思うんだ」
「そうか……それにしても、細い首だな」
ラスカは、そう言うと、僕の喉に手を当てた。くすぐったい。
「……」
「どうかしたの?」
「……簡単なことのはずなんだけどな」
「錬金術か? 確かに、ほかに比べればな」
「……なんで、よりにもよって、運命の王冠なんて見えちゃったんですか、ユーリ様」
「きっと、生産のレベルを上げろっていうお告げだ!」
僕は笑顔でそういったのだが、ラスカは何も言わなかった。
そして――笑みを消して、じっと僕を見ていた。
なんだろう? 首をかしげて、僕も彼をじっと見た。
「……」
「ラスカ?」
「――なんでもありません、ああ。なんでもない」
するとラスカが苦笑してから、再度僕の頭を撫でて立ち上がった。
その温度が気持ちよくて、僕は笑った。
それからふと思って聞いてみた。
「なぁ、今来ていた人は誰?」
「ああ、前にツルハシをくれた友人ですよ。水晶に飽きたみたいで、最近は城に引きこもって薬学ばっかりやってるんですが」
「そうなのか。じゃあ先輩だ。今度紹介してくれ」
「――ああ、そのうちな」
それから採掘に戻り、この日も沢山採掘をした。
そのようにして過ごすうちに、秋が来た。
秋といえば――僕の誕生日がある。今年の誕生日で僕は四歳だ。
今回、ティリアのご学友ということで、後の伝説の勇者も、僕の誕生日パーティに来る事になっていた。きちんと会うのは初めてなので、僕は少し緊張していた。
当日、挨拶の行列を消化し終わってから、僕は早速その姿を探した。
見れば、バルコニーのそばで、お肉をほおばっている少年がいた。
ウィズ=エルダーである。僕の二つ年上の六歳だ。
それとなく歩み寄ると、すぐに気づかれた。
「あ、ユーリ殿下。誕生日おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
ウィズは、漆黒の髪と瞳をしている。エルダー侯爵家の人間は皆この色彩であるそうだ。
人の良さそうな笑顔のウィズは、僕にシャンパンの入ったグラスを一つ持ってきてくれた。ノンアルコールである。
「ユーリ様ってお人形みたいだな!」
「人間だよ」
「知ってる。お人形だったら、買ってもらってとっくに飾ってる」
「ぶは」
「あ、笑った。笑ってるほうが俺好きだな」
「そういうことは女の子に言うんだろ」
「なんで?」
「なんでって、女の子に言ったら恋人になってくれるかも知れない」
「男の子だって恋人になってくれるかも知れない」
「男同士は無理なんだよ?」
「なにが?」
「え? 結婚できない!」
「去年法律が変わったからできるぞ! ユーリ様、勉強不足だなぁ」
ウィズはそう言うと笑った。僕は、衝撃を受けた。そ、そうなんだ!
驚愕したまま雑談を続けているうちに、話し込んでパーティは終わった。
良い奴そうだった。
なお、この年の冬には、僕は範囲魔術の初歩を学び始めた。
大地を振動させる魔術を一つ覚えた。
これならば、一度に一匹ではなく三匹倒すことができそうだった。
図書館で範囲魔術について自習していたら、シオンと何度も遭遇した。
話していたら、この弟もまた、魔術師志望とのことだった。
気が合うなとちょっと思った。
ああ、時が経つのは早い。来年は、もう五歳だ!!
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