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第10話 僕は魔神殺しの槍のレシピを見た!
こうして僕は、十七歳になった。結局旅には出なかった。後の伝説の勇者であるウィズは旅立った。
僕は兄の手伝いをしつつ、生産をしている。
父上は治ったが国王を引退した。
――装飾もカンストし、生産は全て200レベルになった。
もうレベル上げという意味では、僕にはやる事がない。
だから遠隔的な補助として、魔族や魔王軍に抵抗するための武器、個人装備などを、僕は手がけるようになっていった。他にも薬学によるポーション作りなどの仕事もしている。
その時間が増えていったため、兄の手伝いも、直接的には、弟のシオンがやる頻度が増えていった。あの一件を境に王宮の雰囲気は、ガラリと変わった。ラスカがいた頃は、もっとまったりとしていて、のほほんとしていて、ぽかぽかとしていた気がする。
さて、今日は、久しぶりに勇者が帰ってきて王宮に顔を出す日だ。
ウィズと顔を合わせなくなったのも、変化といえば変化なのだろうが、ウィズとはこうして時々会える。
鏡の前で、僕は服の首元を直していた。
僕の背もだいぶ伸びたし――何より、二次性徴を迎えた。
幼い頃に、僕にとっては衝撃の事実だった同性婚の存在を教えてくれたのはウィズだ。
そのウィズだが――……
「会いたかったぞ、ユーリ! 今回こそ、結婚の約束を!」
顔を合わせるなり、公衆の面前で、僕に向かって叫んだ。
「おかえり、僕も会いたかったけど、今回こその意味がわからないからそっちは聞かなかったことにするよ。こっちに新しい剣を用意してあるから試し振りしてみて」
最近、勇者ウィズは、帰ってくるたびに僕に求婚している。
本気じゃないだろうと最初は冗談だと思っていたのだが、周囲が僕にどうするのかと聞いてくるので、さすがに気づいた。新聞でも時々、僕らの関係が記事になっている……。なんということだ! 普通そこは、王女だろ! ティリアじゃだめなのか!?
勇者ウィズとして、ウィズは、新聞で毎日取り上げられている。
大陸で、魔王討伐に乗り出した彼の武勇伝を知らない者はいないらしい。
いつどこで魔王軍と戦ったといった記事が連日踊っている。
「兄としてウィズにユーリはまだ早いから反対だ! 無事の帰還なによりだ、食事をしよう」
そこへフェリクス兄上がやってきて、その場を収めてくれた。
双子のソーマとシオンも一緒にやってきた。
次の勇者の旅立ちから、ソーマもウィズと共に行くらしい。
だから、僕は弟ともしばらく会えなくなるのだ。
なお、現在まで、兄弟仲は非常に良好である。
こうしてみんなが揃ったので食事を始めた時だった。
勇者パーティに参加している魔術師さんに、フクロウが飛んできて、手紙を渡した。
食事の場でみんなが見ていると、魔術師さんが、ガタンと音を立てて立ち上がった。
「魔神殺しの槍のレシピが発掘されたそうです! あれならば、不老不死の魔王を殺害可能です! 至急、レシピを解読できるものを探さなければなりません! メルクリウスの加護の持ち主を!」
その言葉に僕は目を丸くした。なお、周囲の視線は僕に集まった。
メルクリウスの加護については、僕も空き時間に調べていた。
これは、まとめると、視界の端にツルハシマークが見える人、さらに出現した生産ウィンドウでレシピが閲覧可能な人のことだった。ただ、その生まれついての状態では、すべてがレベル0であるようで、上のレベルに関しては、レベル上げをしなければ結局は閲覧不可能であるようだった。
そしてそのレシピの中に――現在、神具や聖遺物とされるような非常に強力な武器などが含まれていたりするそうで、メルクリウスの加護を持つ者の生産品は、特別視されているようだった。
周囲が何かを僕に聞きたそうにしていて、僕もそのレシピについて聞きたいと思っていた時、もう一匹のふくろうがやってきた。
「レシピの写も届きました。この解読を大至急しなければ!」
「それ、もらっても良いか?」
「もちろんです勇者殿」
受け取ったウィズが、それをそのまま僕に渡した。
「読めるか?」
「待ってね」
受け取って、僕はじっと眺めた。読めた。
それは――鍛冶210レベルレシピだった。僕は鍛冶レベル200だから、10上までは余裕でレシピを閲覧出来るので、すんなりと読むことが可能だった。そしてそれに触れた瞬間、僕のツルハシマークが視界の隅で金色の光を放った。何かと思って展開すると、すべての7つの生産に、210までのレシピが追加されていた。こ、これは……!
生産のレベルキャップが解放された時と同じだ!!
僕は驚いた。つまり、今から、生産を全て210まで上げることが可能になったのだ。
他のレシピも見たが、今回の槍のレシピの他にも、魔王関係で使えそうなものも多数追加されていた。初めて聞く素材もある。
レベル上げという目標が、僕に再びやってきた。
だが、10レベル上のレシピまでは作成可能であるため、現時点でも僕は、手渡されたレシピの槍は、材料さえあれば製作可能だ。
しかし作ったら、ラスカが殺されてしまうかもしれない。
「ユーリ、どうだ?」
「……ごめん、その」
「じっくり解読に挑戦してくれ。それは持ってていいからな!」
僕は曖昧に頷いた。解読できたとは言えなかった。
ラスカの事を考えると、この槍に関わるのが怖かった。
だが、だからといって頑張っている友人や兄弟の力になれることがあるのに、なにもしないというのも気が引ける。僕は、一体どうしたら良いのだろう。新たな悩みが生まれた瞬間でもあった。
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