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タイガーリリー 第1話 観察 | mocolの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
タイガーリリー
第1話 観察
作者:
mocol
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第1話 観察
監視
(
かんし
)
業務中の
本谷嗣巳
(
もとや つぐみ
)
は今、1人の少年から目を離せないでいた。
――
ここは、今日開幕したばかりの写真展の展示会場だ。初日というだけあって、来場者が多い。 少年は人波に埋もれ、姿が
僅
(
わず
)
かに見えるほどだった。 先程からひたすら顔を伏せ続け、薄い肩が小刻みに震えている。 男子にしてはやや長めの髪が、顔にかかって表情までは分からない。中学生か、高校生くらいの骨格だ。 (一緒にいるのは年上の仲間だろうか) 20代くらいのやたらと派手な男たちが、少年を5人ほどで取り囲んでいる。 周囲も皆、
怪訝
(
けげん
)
にしているわけではないのだが、この会場で彼らだけが浮いていることは確かだった。 時折り、周囲の男たちが少年にヒソヒソと話しかけ、その度に動揺しているように見えた。 何度も立ち止まっては、男たちに歩けと促されているようだ。 (立っているのが辛いのだろうか?) 不自然に思われぬよう回り込み、横目で観察することにした。 ふと、少年の顔が上がった。 オレンジ色の立派な花の姿を、鮮明かつ堂々と写した写真と
対峙
(
たいじ
)
する。 少年の
華奢
(
きゃしゃ
)
な首が懸命に伸び、少しの間、まるで時が止まったかのようだった。 その写真の何がそこまで少年を
惹
(
ひ
)
きつけたのかは分からない。 柔らかそうな色素の薄い茶髪の隙間から、少し上気した頬と、澄んだ瞳の横顔が
露
(
あら
)
わになった。 写真を真っ直ぐに見つめるその姿は、まるで神聖な何かに
縋
(
すが
)
っているような神々しさに満ちる。 「
――
綺麗だ」 本谷は思わず、自分の心の声が
漏
(
も
)
れてしまったことに驚いた。 だが、その感動もすぐに消え去ることになってしまった。 少年の体が突然震え出し、呼吸が乱れて細い肩が大きく上下する。
動悸
(
どうき
)
が起こっているのか足元がふらつき出す。 誰よりも早く変化に気付いた本谷は、慌てて駆け寄った。 「お客様ッ!!」 今まさに倒れんとする薄い体を抱きとめる。 「きゃああ!」 「なんだ?!どうした!」 周囲の客もまた異変に気付き始めた。 「オイ!
琥珀
(
こはく
)
!何やってる!!」 隣にいた仲間の男が激しく
怒号
(
どごう
)
を上げた。他の仲間たちも、次第にザワつき始める。 「こいつ、また倒れやがった!」 本谷は、寄りかかるので精一杯な少年の体を、床の上にゆっくりと寝かせるように降ろした。 ちょうど
膝枕
(
ひざまくら
)
をするような形で保護すると、小さな体はガクガクと震えながら、横向きにくるまった。 「お客様?分かりますか?」 覗きこんだ先の少年の目は、焦点が合わない。 「……ハッ、ヒュッ……あ……あ」 必死に息をしようと、苦しそうに
喘
(
あえ
)
いでいた。 「まずいな、過呼吸か。今救護の者を呼びますので!場合によっては救急車を…!」 情報通信用のインカムに手を伸ばすが、男のうちの1人に遮られる。 「あー、大丈夫っす。
即
(
そく
)
連れて帰りますんで」 やたらと慣れた男の様子に、本谷は身が引けてしまった。 男はそのまま、横たわる少年の耳元で
囁
(
ささや
)
いた。
「オイ!……琥珀……仕事だ
――
」
低い声で言い放つと、そのまま少年の無防備な尻をひと撫でした。
「……ッ!」
少年の目が、突然大きく見開いた。 髪と同じで色素の薄い瞳。 はらりと落ちた前髪の間から、子どものような丸く愛らしい額が覗いた。 「……うッ!うわああッッ!!」
ガブッッ
怯
(
おび
)
えた反動なのか、少年は近くにあった本谷の左手に勢いよく噛み付いた。 「ッ
痛
(
つ
)
?!」 思わず手を離すと、その
隙
(
すき
)
に別の男が少年を肩へと軽々
担
(
かつ
)
ぎ上げた。 「コラ!おまっ、この!暴れるんじゃねぇ!帰るぞ!!」 その姿はまるで、興奮する犬か猫をあやすかのようだ。 「……?!むぐっ!んん……!」 男は抵抗しながら取り乱す少年の口元を
塞
(
ふさ
)
ぎ、足早に会場を出て行く。
呆気
(
あっけ
)
にとられている本谷を
他所
(
よそ
)
に、残りの仲間たちも1人残らず去って行った。
――
パタパタと足音が近づく。 「本谷!本谷!大丈夫か?」 慌てた様子で確認に来たのは、上司の
古河
(
ふるかわ
)
リーダーだった。 「……はい。事故ではなく、体調不良のお客様で、すでに同伴者の方とお帰りになられました……」 「どうも見慣れない若者グループだったな。会場が混乱してる。お前も誘導に回ってくれ!」 本谷はハッとして、自分の職務を思い出した。 この場を収めようと、とにかく必死に取り繕うが、思考は何度も停止する。 腕の中に感じた、少年の柔らかな肌の温もり。すぐに離れていってしまったことが淋しく、何度も出口の方へ目をやった。 「いけない、業務に集中を……」 手に付けられた噛み痕の熱に、まるでいつまでも浮かされているかのようだった
――
。
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