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第36話

 いつものように、文維(ぶんい)煜瑾(いくきん)を抱いたまま眠っていると、煜瑾がビクリと震えたのを感じ、文維は目を覚ました。  腰から下を覆っていた、シルクのカバーに包まれた薄い真綿の布団を、煜瑾の肩まで引き上げると、文維は大切な天使が心地よく眠っているのを確かめた。  この美しく清らかな天使が、本当に自分の物になったのだと文維は心が安らぐ。そして、自分もまた煜瑾に求められ、必要とされているのが嬉しかった。  My better half.  我が良き片翼よ…。  心も、魂も、肉体も、何かが欠けていた2人だった。  それを、煜瑾は文維を、文維は煜瑾を得ることで、全てが満たされることを知った。  自分が満ち足りた人生を送るためには、お互いが必要だから、もう決して離れられない。  人として生きる上で、何よりも大切なものを得た。  これは誰もが得られるわけではない、幸運な出来事だ。  無心論者の包文維だが、唐煜瑾を得た幸運を天に感謝してもいいと思った。 「ぶんい…」  その時、文維の大切な天使が、恐る恐るというように瞼を上げ、潤んだ瞳で文維を見つめ、心細げに小さく呟いた。 「どうしました、煜瑾?」  驚いて、心配そうに文維がその美貌を覗き込むと、煜瑾はホッとしたように微笑んだ。そのはずみで、澄んだ瞳から涙が一粒こぼれた。 「大丈夫ですか?何も怖くありませんよ」  優しい恋人の声に、煜瑾は素直に答える。 「夢を…、見たのです」 「夢?」  煜瑾がキュッと唇を噛んだ。そして文維に救いを求めるような目をした。 「文維が…、居なくなる夢なのです…。文維に会いたいのに、傍に居て欲しいのに、どんなに探しても、文維は居ないのです…」  夢の中の苦しい胸の内を思い出したのか、煜瑾はそのまま静かに泣き出してしまう。 「ずっと文維と会えなかった時を思い出して、哀しくて…つらくて…」  煜瑾の涙に耐えられず、文維は煜瑾を強く抱きしめた。 「私は、ここにいますよ。どこにも行きません。安心して下さい」 「文維!」  文維に縋りつき、煜瑾もまた大切なものを手放すまいとしていた。 「煜瑾、私たちはお互い無しには生きていけないのですよ。離れては、生きていけないのです。私も、私らしく生きるためには、煜瑾と離れては生きていけない」  My better half.  我が良き片翼よ…。  1人では、輝かしい明るい未来へ飛び立つことはできない。 「ずっと、ずっと一緒ですよ。煜瑾は、私の赤いチューリップですからね」 「はい…。文維は、私の紫のチューリップです」  2人は心から満たされて、美しい笑顔で抱き合い、目を閉じた。  赤いチューリップの花言葉は、「永遠の愛」。  紫のチューリップの花言葉は、「不滅の愛」。  Ever after….  2人のチューリップの恋は、いつまでも、幸せに続くのでした。   ~おしまい~

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