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【いにしへの喚び声~後日譚】ー 初夏の候 ①

 ―世々(よよ)御祖(みおや)の血の盟約(めいやく)()って、()の者に受けし力を与えん― 海人が詠唱し、見上げるとイリアスの顔がある。引き寄せて、口づけた。 二人の間で力の受け渡しが行われる。 未知の魔力は詠唱によって、海人の体内に生じる。その魔力をイリアスが受け取る。   そういう場面のはずなのだが。 「…………ッ」 海人が身じろぎすると、イリアスはようやく唇を離した。 口から糸が引く。イリアスはそれを親指でぬぐい、海人は手の甲で口をこすって、しゃがみこんだ。   新たな魔力を受け取ったイリアスは、瞳もまた琥珀色に輝いていた。 両手の指先を合わせ、目をつむっている。 ほどなくして、上空に結界が張られたようである。イリアスは指を離した。 魔力の解放と同時にイリアスの瞳が灰色に戻る。 「終わったぞ」  イリアスが見下ろすと、海人は勢いよく立ち上がって言った。 「あのさ! もうちょっと、ふつうに受け取ってほしいんだけど!」 頬が紅潮している海人に、イリアスは涼しい顔で答えた。 「カイトからキスしてくれるのは珍しいからな」 「え、そうかな……。いや、そういうことじゃなくて‼」 感情が表に出ないイリアスに、海人はくるくると表情を変えた。 海人の文句は無視して、イリアスは部下のいる方へ歩き出す。少し先に茶色い髪の青年と髭面の中年男がいた。 隊長のイリアスを敬愛する隊員シモンとイリアスの副官ダグラスである。 リンデ辺境警備隊駐屯地の隊舎裏では、異世界からの跳躍者だけが持つ『第五の霊脈』の魔力を使って、駐屯地の上空に魔獣を阻む結界が張られるようになっていた。 警備隊の中でこのことを知っているのは、シモンとダグラスだけだ。 海人に異能があることは伏せられており、シモンは毎度人払いで呼ばれていた。 月に一度の恒例行事である。 そこに通りかかったダグラスが様子を見に立ち止まったようだ。 海人はついにダグラスにも見られたのかと、恥ずかしくなった。その心中をよそに、イリアスが言った。 「二人に話がある。今からいいか」 上官の言葉に二人が短く返事をすると、イリアスは振り返った。 「カイトもだ」 少し離れて歩いて来た海人は、小首を傾げた。

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