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第6話◆マジカルアイテムを使おう!

 ふわふわ卵のオムライスは、お皿をちょっと動かしただけで卵が崩れてしまいそうなほど、本当に卵がふわふわで感動した。しっとりとしたチキンライスと濃いトマトソースとの絡みが抜群で、毎日食べたくなるようなおいしさだった。  けど、そんな素敵なオムライスをじっくり堪能するヒマはなかった。 「えっ。羽天南(ウテナ)さんと俺が同室?」 「そうですぞ。ウルウは役職持ちで最上階フロアの一人部屋でござろう? デュフッw 一人部屋が羨ましいなどと思いませんわーww こちとら那由多(なゆた)氏と同室ですからな、プギャーwww」 「あーもう、いちいちヤな言い方するなあウテナは! ウザいくらい遊びに行ってやるもんっ!」 「嫉妬乙w 負け犬はよく吠えるww 大体風紀がそう簡単に我ら平民の部屋に押し入れるとでも? 頭使って話されよww」 「ぐるるるぅ……!」  二人が喧嘩を始めてしまう前に――とはいえ俺には二人が仲良く見えるんだけど――俺は慌てて制服のポケットからあるものを取り出した。 「羽天南さん」 「那由多氏、拙者のことは呼び捨てでいいですぞ……って、ん? ソレは」 「嵐士(あらし)先生からルームメイトにって。羽天南さん……いや、羽天南が同室ってことは、俺のルームメイトってことだよね」 「thx! やっぱシャイニスは仕事が早いですな、もうできたのか」  嵐士先生からこっそり渡された小さな石を摘み上げた羽天南はそれを光に透かすように掲げると、綺麗な金色の猫目を眇めた。 「ほぉ、いい品ですな。拙者のアイテムに相応しい」  ややあって「食べながら聞いてくだされ」と言い置いた羽天南は、テーブルに散らばったお菓子を脇に避けると、ブレザーの内ポケットから何かを取り出した。どうでもいいけど、羽天南はもしかしてお昼ご飯シュニッカーズとカロリーメイクとエナドリで済ますつもりか?  羽天南はまたあのニタァとした笑みを浮かべた。 「ドゥルルルルル……ジャ〜ン! 普段は冴えない男子高校生、でもその正体は?! な那由多氏にピッタリのマジカルスターペ~ン!」 「?」 「それから〜っ、魔法少年にふさわしい可愛さ限界突破な仕上がりッ! マジカルコンパクト・ベルトバックルver.~~!!」 「??」 「そして最後は構想二秒、制作三日と思えぬ拙者の最高傑作ゥ~ッ! 便利さと見た目の良さがSSRなマジカルeye(アイ)ちゃ~~~ん!!!」 「???」 「いや何黙ってるでござるか! キミら本当に同志か?!!」  そう見せられても何のアイテムだかさっぱり見当もつかないし、というか冴えない男子高校生って事実だけどちょっとショックだし、だいたい大勢がいる食堂でこんな大声で魔法アイテムを披露していいんだろうかとか、とにかくいろいろあって黙るしかないのだ。  (ウルウ)が言う。 「食べながら聞けって言ったのはそっちでしょ?」 「いやいやw 揚げ足すら取れてないからww 拙者黙ってろとは言ってないし? ウルウと違って那由多氏はハテナ浮かべてくれて優しすですな〜」 「あのっ、羽天南。これは何に使うの?」  結局ハテナ浮かべてただけでもいいのか? と思いつつも、とにかくまた喧嘩が始まりそうなので俺は焦って話を戻した。 「おお、よくぞ聞いてくれましたな!」  羽天南はせっかく整った顔立ちなのに変な口調でイメージを崩壊し続けながら、嬉々として語り出した。 「説明しよう! まずはこのマジカルスターペン。一見ただのカワイイ多色ボールペンなのだが、星の力を持つ那由多氏が使えばアラ不思議。マジカルステッキに早変わりッ!」 「おお!」  マジカルステッキというのは、俺が六年前になる前回の地球防衛活動をしていた時のアイテムだ。見た目はバトントワリングで使うバトンに似た形で、長剣、短剣、弓、フラッグ(この形態になると風魔法が放てるだけでなく、箒みたいに跨って空が飛べるんだ!)と、四種の武器に変幻自在なアイテムだ。  ステッキの両端にはまるで小宇宙のような、美しい宝石めいた球体が嵌め込まれていて、ファンタジーアニメや漫画のアイテムさながらの見た目だ。そしてステッキのオリジナルな形態でも、その先端の魔法具から魔法を放つ武器として使用ができる。  そんなステッキがこんな小さなボールペンタイプで持ち歩けるなんて正直、すごく便利だし本当にすごい。 「しかも驚くなかれ。いや、驚いて大天才発明家羽天南様と呼んでも大いに結構というか致し方ないというかなんだが? とにかく、このマジカルスターペンを使えば那由多氏はテストで全教科満点が取れる!!」 「ええ?!」  閏と俺の声が重なった。 「オゥフw いい反応ですなww そうでござる、星の力を宿す那由多氏が握れば、まさしく魔法のように解答がするすると書けるのでござる! これで那由多氏の偏差値が学園に追いついてないおバカちんでも大丈夫ですな!!」 「……」  いや、本当にすごいけど……さっきから羽天南、ナチュラルに俺のことディスってくるなあ。 「あとこのマジカルスターペンは変身の時にも使いますからな。無くさないように大切にするでござるよ」 「うん。どうもありがとう」  俺はマジカルスターペンを羽天南から受け取った。  羽天南が「カワイイ」と称する通り、マジカルスターペンは女の子が好きそうな太いパステルカラーのゆめかわ十色ボールペンのような見た目で、先端には水色のキツネ――もしかしなくても閏がモチーフだろう――のマスコットが付いている。ピンクは長剣、オレンジは短剣、黄色は弓、黄緑はフラッグ……と、変身魔法詠唱時にノックしている色によって、その種類の武器をすぐに装備できるみたいだ。男子が持つには正直痛すぎるけど……文句は言えまい。 「次はこれですな」  そう言って、羽天南は今度キラリとしたコンパクトを手に取った。

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