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第2話 ◆ ウルウと閏⑤

「ん……?」 「ああ、これ? 僕は獣人族だから、獣人の姿が一番落ち着くんだよね。だから寝るときはこの姿なんだ」  俺はシーツから顔を覗かせる。ウルウの尾てい骨あたりから生えたふさふさの太いしっぽが、ゆったりと左右に揺れている。脚に触れたのはこれらしい。  さらに頭の方へ目をやれば、大きな三角の耳がふたつ、人間の耳の代わりに生えていた。そのどちらも髪色や獣の時の毛並みと同じ、あの水色だ。  俺はその耳に触りたいなあと、朝の働かない頭で考えたままぼーっとウルウを見つめていた。  ウルウはそんな俺を眺めて――クスッと笑った。 「ほら! 早くしないと朝のホームルームに間に合わなくなっちゃうよ那由多。起きてっ!」  楽しそうに俺の背中をバシバシと叩く。 「……ウルウ」 「うん?」 「今の……すごく、懐かしかった」  俺はもぞりと起き出して、ベッドの上からウルウを見上げた。人間の姿だろうと獣人の姿だろうと、ウルウはあの時のまま、ウルウだ。  まだ眠たくて、うまく笑えないぎこちない表情で俺は言う。 「おはよう」  きょとんとしたウルウは、すぐに満面の笑みを浮かべてくれる。 「うん、おはよっ!」  そうだ。小学生の時も、朝の弱い俺をよくウルウがこんなふうに起こしてくれていた。あの時はウルウもすごく小さくて可愛らしかったから、ずっと俺の家でぬいぐるみのフリをして暮らしていたっけ。  確かに大変なこともたくさんあって、怪我をしたり辛い思いをしたり怖いことも次々起きたけど、それでも俺の魔法少年としてのウルウと過ごした1年間は楽しくて、かけがえのない思い出なのだ。こうしてまたウルウと再会したことで、朧げだった記憶が鮮やかに蘇ってくる。  これからどんなふうに活動をしていくのかまったく見えてこないけど、それでもまた、ウルウと一緒に頑張るのも悪くないなと思った。  俺は今度こそベッドから出て、ウルウのそばに立った。 「ウルウ。ウルウは学園ではなんて名前で過ごしてるんだ?」 「あ、そうだね。那由多、人間の僕の名前は諸星閏(もろぼしうるう)。名前は一緒だから、呼び方は今まで通り、変えないでほしいな」 「うん、分かった。……よろしくな、諸星閏くん」 「はい。改めてよろしくね、神風(かみかぜ)那由多くん」  大きくなった俺たちは握手をして、思わず笑い合った。

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