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序章 : 4 *

 グチグチと、いやらしい音がカナタの鼓膜に届く。  まるで耳を犯されているかのような錯覚に、カナタはもう一度目を閉じた。 「可愛いなぁ、カナちゃん。さっきまでは俺の胸を押し返していたクセに、今じゃしがみついてきてるんだもん。ホンット、エッチだねぇ?」 「ち、ちが──あ、っ!」 「素直じゃないところも可愛いよ。ますます頑張りたくなっちゃう」  言葉通り、手の動きが激しさを増す。  カナタはどうすることもできずに、ただただ声を押し殺そうと尽力する。 「ん、ふ……ぅ、んん……っ!」  そんなカナタを見つめて、ツカサは楽し気に口角を上げた。 「カナちゃん、もうイきそう?」 「ん、ぅ……っ! イ、きそ……で、す……っ」 「そうなんだ? ウソを吐かないカナちゃんはいい子だね?」  腰を引き寄せて、ツカサはカナタの体温をさらに求める。  すぐ目の前にある、赤くなったカナタの耳朶。  ツカサは唇を寄せて、吐息交じりの声で囁いた。 「一緒にイっちゃおっか」 「っ!」  ゾクリ、と。  カナタの体が、ツカサの声によって粟立つ。  その瞬間──。 「──ん、んぅ……っ!」  一際大きく、カナタの体が震えた。  頭の中が真っ白になり、ただ本能のままに【快楽】のみを享受する。  耳元で一瞬、ツカサが息を呑んだ気がしたけれど……カナタには、確かめるすべがない。 「は、ぁ……は、っ」  荒くなった呼吸を落ち着かせることに、カナタはただただ尽力しているからだ。  肩で呼吸をするカナタとは打って変わり、ツカサは慣れた手つきで後始末をしている。  ティッシュでカナタと自身の下半身を拭い、ツカサは手早く痕跡を消していた。 「カナちゃん、気持ち良かった?」 「……っ」 「なんて、恥ずかしがり屋のカナちゃんが答えてくれるワケないか」  身なりを整えた後、ツカサがカナタに覆いかぶさる。  そして、変わらない笑みを向けた。 「カナちゃん。……お口、あ~ん」  まともな思考を放棄したカナタの頭は、ただただ与えられた単語を体へ反映させる。  ゆっくりと口を開き、滲む視界で自身へ覆いかぶさるツカサを見上げた。 「素直に言うこと聞いてくれるカナちゃん、すっごく可愛い」  そう囁いた後、ツカサはカナタへ深い口付けを贈る。  口腔を舌で嬲られ、息苦しさと気恥ずかしさから、カナタは生理的な涙を零す。  それから、数秒後。  吐息すらも奪うような口付けから、カナタはようやく解放された。 「二度寝しちゃダメだよ、カナちゃん」  上体を起こしたツカサはそう言い、カナタの頭を撫でる。  慈愛を込めたような声を残した後、ツカサは上機嫌そうにカナタの部屋から退出した。  扉が閉まり、自室に一人取り残された後……。 「はぁ……っ」  カナタはため息を押し込むように、すぐさま枕に顔を押しつけた。 「オレって、単純すぎるのかな……っ?」  倦怠感と、満足感。  それらは全て、ツカサから与えられたもの。  ──けれど、ツカサとの関係は【恋人】なんかではない。  ──あえて言葉にするのなら、同じ建物で暮らしているただの【同居人】。  それでも、カナタはツカサを拒絶できなかった。  それは、ツカサの容姿に惹かれているからではない。 「──今日も、いっぱい『可愛い』って、言ってくれた……っ」  カナタは、ただ……。  ──【可愛い】という言葉に、めっぽう弱いのだ。 序章【そんなに弄ばないで】 了

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