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 口角を上げて、ツカサは冷ややかに笑っている。 「カナちゃんが『要らない』って言うなら、満場一致で【要らない】よ。だけどカナちゃんが『大切』って言うのなら、俺も存在することくらいなら許容してもいいかなって。……そう、少しだけ思える」  ツカサのそんな姿を見て、ウメは苦笑するしかなかった。 「へぇ?」 「だけど俺は、当初となにも変わらない。カナちゃんが他の奴に想いを寄せそうになったら、俺はカナちゃんを殺す。そして、俺を裏切ったカナちゃんを地獄で捕まえて、もう一度【俺たちの運命】を説くよ。俺にはカナちゃんだけだし、カナちゃんにもそうであってもらいたいからね」  苦笑したまま、ウメは口を開く。 「成長したんだか、変わっていないんだか。なかなかどうして、コメントに困る告白じゃないか」 「受け取り方は、ご自由にどうぞ。お前になにを言われたって、俺は俺だからね」  組んでいた腕を解き、ツカサは変わらず静かな声で続ける。 「……カナちゃんは、さ。どんな俺でもいいって言ってくれたんだ。俺が変わっても、変われなくても……俺が俺で在るならいいって、言ってくれた。カナちゃんは正しく、俺を知ってくれている。そんなこと言われちゃったら、さすがの俺でも『変わらなくちゃ』って思っちゃうよね。あの言葉は、それだけ尊いものなんだから……」  どこか照れくさそうに笑うツカサの目は、目の前に立つウメを映してはいない。ツカサが見据えているのは、扉一枚を隔ててダイニングにいるカナタだけなのだから。 「……さて、と。それじゃあ、俺はカナちゃんを励ましてくるよ。丁度、お義母様との電話も終わりそうだしね」 「もしかしてアンタ、アタシと話しながらカナタの電話に気を配っていたのかい? とんだバケモノだねぇ……」 「残念ながら、カナちゃん以外からの評価は俺に響かないよ」  そう言って笑うツカサは、ウメも知っている【普段のツカサ】だった。  壁にもたれかけていた体重を足に戻したツカサは、そのままカナタが居るダイニングへ向かおうとする。  ……しかし、一度だけ足を止めた。 「……カナちゃんは、俺を正しく知ってくれている。だけど、ウメ。お前は違うよ。お前たちは、俺のことを分かっていない。そして、俺もお前やシグレのことを分かってやろうとは思っていない」 「アンタまさか、アタシが言った『アンタらしくない』って言葉を気にしているのかい?」 「違うよ。……って言うか、結論を急ぐせっかちな女は嫌われるよ」 「どの口が言っているんだい、どの口が」 「ウルさいなぁ。……とにかく、お前たちは俺のことを一生理解できないよ。俺も理解するつもりはないし、俺たちは結局そこまでの間柄なんだから」  ダイニングと通路を隔てる扉に手をかけ、ツカサは言葉を続ける。 「──だけど。それでも、ウメとシグレは俺の【家族】だ」  ……それは本日一番、ウメに衝撃を与える言葉だ。 「これは最初で最後の謝辞だけど……俺を拾ってくれてありがとう、ウメ。それに、シグレも」  それだけ言い、ツカサは電話を終えたカナタが居るダイニングへと向かった。  扉が閉まったのを見届けた後、通路に一人で残されたウメはポツリと、誰に言うでもなく言葉を紡いだ。 「それはこっちのセリフさ、バカ息子め」  当然、その言葉は誰に届くわけでもなく、静かに空気へ溶けていった。 10.5章【そんなに変化を見届けないで】 了

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