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 カナタは必死に笑みを浮かべながら、ウメとの会話を続行する。 「オレが好きだったカフェがあるので、そこを案内する予定ですっ。えっと、その……すっ、好きな人とそこでデートができるなんて、夢みたいだなぁっ! ……な、なんて……っ」  さすがにこれは、露骨すぎたか。カナタは恐る恐る、隣に立つツカサを見上げた。 「そんな奴相手に、そこまで詳細に教えなくていいよ、カナちゃん」  口調は素っ気ない。ウメがいるのだから当然だろう。  ……しかしその頬は、ほんの少しだけ赤くなっているように見えた。つまり、好印象ということだ。  ツカサは身を寄せられていた腕を動かし、カナタの腕を掴む。どうやらこれ以上、ウメとは話したくないようだ。  そのままウメの隣を通り過ぎようとすると、途中で……。 「あっ、そうだ。カナタ! 玄関にクーラーボックスを置いておいたから、それをカガミ──アンタの両親に渡しておいてくれないかい?」 「はいっ、分かりましたっ! ……お土産、ですか?」 「まぁ、そんな感じかね。……とにかく、頼んだよ!」 「は~いっ!」  腕を引かれながらウメとの会話を終えたカナタはすぐに、ツカサを見る。 「ツカサさん、あのっ。腕、少し痛いです……っ」 「俺だって、胸が痛いよ」  ツカサは不機嫌そうに眉を寄せながら、ブツブツと文句を紡ぐ。 「カナちゃんはちょっと、ウメに気を許しすぎ。好きな子が他の奴と仲良くしているところを直視できるほど、俺は出来た人間じゃないんだよ。腹が立って仕方ないし、そもそもどうしてカナちゃんの時間を他の奴に分けなくちゃいけないのさ。せめて俺に許可を取ってよ」 「……許可、くれますか?」 「なんで他の奴にカナちゃんを明け渡さないといけないのさ」  貰えない許可を取ろうとするほど、無駄なことはないのでは。思わずそう考えてしまったがツカサには言わず、カナタは苦笑する。 「ウメさん、素敵な人ですよね。ツカサさんにとって大切な人なのも、分かります」 「たい、せつ。……葬式の出席を検討する程度の相手だよ。モチロン、私服でね」 「あははっ」  ツカサにしては、かなり上位のところにいるポジションだろう。カナタが笑ってしまうのも仕方がない回答だ。  しかし、ツカサはそれでも不服そうにしている。 「だけど、それとこれとは全然別。俺以外の奴と親しくされると、俺はカナちゃんに【怖いこと】をしそうになる」 「……もしかして今、我慢してくれていますか?」  玄関に辿り着くと、ツカサがカナタの腕から手を放した。 「ウメなんかが理由で、カナちゃんから嫌われたくない」  大人げなく拗ねているツカサを見て、以前までなら思うことがあったかもしれない。  だが今のカナタは、こうして拗ねているツカサを見て『可愛い』と思ってしまう。ウメの言葉を借りるのならば『強くなった』ということなのだろう。 「ツカサさん、なんだか可愛いです」  床に置かれたクーラーボックスに手を伸ばして、カナタはそう呟く。  その手を制した後、ツカサはジッとカナタを見つめた。  

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