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日が落ちてきて、カナタはツカサと共に家へと向かっていた。
「もうお義父様も帰ってきているかな? 第一印象、いい感じにしないと……」
独り言のようにそう呟くツカサを見上げて、カナタは眉尻を下げる。
「……晩ご飯の時に、話そうかなって思っています。オレと、ツカサさんのこと」
やはり、どれだけ鼓舞してもらっても怖いものは怖い。カナタの声は、カナタ自身でも驚くほど弱気な音だった。
ツカサは俯くカナタを見て、口を開く。
「ウン、分かったよ。理解を得られるよう、頑張るね」
「変なことはしちゃ駄目ですよ?」
「信用ないなぁ。意識までは奪わないし、外傷だって残さないよ?」
「どういう意味ですか……っ!」
冗談なのか、本気なのか。ツカサらしい言葉に、カナタは衝撃を受ける。
すぐにツカサは笑みを浮かべて、戸惑うカナタを見下ろした。
「カナちゃんにとって、ご両親は大切な人なんだもんね。それなら、俺も誠心誠意ご挨拶するよ。カナちゃんを育ててくれた人たちからカナちゃんを貰うんだもん、当然だよ」
意外にも、ツカサは協力的だ。てっきり、もっと非人道的行為を取るかと思っていたのだが、杞憂だったのかもしれない。
「……念のための【薬】と【念のため】は、最終兵器ってことで」
ツカサの変化に感動していたカナタは、呟かれた言葉をきちんとキャッチできなかったが。
そうして歩いていると、二人はカガミ家へ到着する。カナタは玄関扉の前で一度だけ、深呼吸をした。
来た時と同様、鍵は開いている。カナタは玄関扉を開けて、家の中へと入った。
ツカサもすぐに、カナタの後に続く。出て行く時にはなかった物──カナタの父親の物と思われる靴が並んでいることを、しっかりと確認した後に。
「ただいまっ」
「おかえりなさい。随分遠くまで行ったのね? 日が落ちてきちゃったわよ?」
「いろんなところをグルグルしてきただけだよ」
「そう? もうちょっとで晩ご飯ができるから、鞄を置いたらこっちに来てね? 手洗いうがいも忘れずに」
「ちょっと、お母さんっ。子供扱いしないでよ、恥ずかしいから……っ」
母親とのやり取りを眺めて、ツカサは目を細める。
それからすぐに、リビングにいるもう一人の家族──カナタの父親に、ツカサは視線を向けた。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ありません。ツカサ・ホムラと申します」
夕刊を読んでいた父親は、ツカサの挨拶を受けてすぐに顔を上げる。
「……はじめまして。カナタの父です」
「はじめまして」
軽い挨拶を交わした後、ツカサはカナタの後に続く。
通路を歩きながら、ツカサはコソッとカナタに耳打ちをした。
「お義父様、カッコいいね。カナちゃんは可愛いからお義母様似かな」
「両親を口説いちゃ駄目ですからね?」
「俺はカナちゃん一筋だよ」
カナタが言っていた通り、父親にはあまり愛想がない。新聞から上げた顔も、どことなく不機嫌そうなものだった。
けれど、ツカサはそういった類のことには怯まない。むしろ、ツカサならば大切なカナタに近付く者には鋭い牽制を送るのだ。そう思えば、カナタの父親は優しく思える。
荷物をカナタの部屋に置いた後、二人は夕食を食べるためにリビングへと向かう。
……そしてそこで、カナタはようやく両親に告白をするのだった。
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